悲劇を一刻も早く止めなければならない。イスラエルとパレスチナ人の戦闘が激化し、子どもを含めて多数が犠牲になり、市民生活が破壊された。
イスラエルの強権統治に反発するパレスチナ人のイスラム組織ハマスは無差別のロケット弾攻撃を行い、イスラエルは報復としてハマスが拠点を置くパレスチナ自治区ガザへの空爆に踏み切り、相互憎悪のエスカレートが起きている。犠牲者の拡大を国際社会は全力で食い止めるべきだ。
衝突の原因の一つは東エルサレムのパレスチナ人居住地区からの立ち退き問題だ。イスラエルがパレスチナ人に立ち退きを命じ、今年4月中旬にはイスラム教のラマダン(断食月)に合わせてエルサレム旧市街の入り口にある広場を封鎖したことでパレスチナ人は憤り、衝突は急拡大した。
境界をイスラエルが徹底管理するガザは「天井のない監獄」と呼ばれ、住民は逃げ出すこともできない。イスラエルの地上部隊がガザに侵攻した2014年にはパレスチナ側で2千人以上が死亡している。その再現だけは避けたい。
今回の衝突の拡大には政治的な要因もある。イスラエルは過去約2年間で4回の総選挙を行うという政治混乱の中にあり、ネタニヤフ首相はパレスチナ政策で弱さを見せられない。
パレスチナ側も自治政府を担う主流派ファタハとハマスの対立が激しく、自治政府は15年ぶりに5月下旬に行われる予定だった評議会(議会)選を最近になり延期したことで、求心力を失った。ハマスへの敗北を恐れたと臆測されている。
最大の影響力を持つ米国のバイデン大統領は「停戦を支持する」と述べるが、イスラエルの自衛権を擁護するとしており、イスラエル寄りの姿勢だ。国連安全保障理事会も米国の反対で、停戦を呼びかけられていない。
バイデン氏の姿勢からは、イラン核合意への復帰交渉を優先するあまりに、同合意に反対するイスラエルを怒らせたくない、という本音がうかがえる。
また中国との競争に精力を集中するために中東への関与を減らす方針で、パレスチナ問題には熱を入れていない。国務省報道官は「(パレスチナ問題は)進展が期待できない」と冷淡だ。
パレスチナ人の境遇は1948年のイスラエル建国以来悪化する一方だ。度重なる戦争でイスラエルは支配地域を拡大。パレスチナ人を支援するはずのアラブ各国も79年のエジプトを皮切りに、イスラエルと国交を樹立する国が相次いでいる。イスラエルの経済力に引き付けられてのことだ。米国のトランプ前政権は露骨な親イスラエル政策を遂行した。
現地情勢も国際社会も複雑さを増すばかりだが、イスラエルもパレスチナ人もこれ以上の市民の犠牲と生活の破壊は望んでいないはずだ。まずは空爆とロケット弾攻撃の停止という一時停戦を実現したい。
徐々に進んできたイスラエルとアラブ各国との関係改善の動きの中で、置き去りにされてきたのがパレスチナ問題だ。その最終的な解決がなければ悲劇は終わらない。
米国は本腰を入れた停戦調停とともに、中立的な立場からパレスチナ人の将来計画を示す必要がある。日本を含めた国際社会の双方への説得も不可欠だ。