白昼の一報に「またか」と思った人も多かったのではないか。岸田文雄首相が衆院和歌山1区補欠選挙の応援で訪れていた和歌山市内の漁港で、街頭演説を始める前に筒状のものが投げ込まれ、爆発した▼幸い首相にけがはなく、投げ込んだ人物はその場で取り押さえられ、威力業務妨害容疑で逮捕された。兵庫県川西市の24歳の男という▼よみがえるのが昨夏の記憶だ。参院選投票日2日前の7月8日、奈良市内で街頭演説中の安倍晋三元首相が銃撃され死亡し、国内外に衝撃が広がった。国際的には治安がいいとされる日本での凶行に「まさか」と思った人も多いだろう。そのわずか9カ月後に、今度は現職の首相が標的になった。もう「まさか」では済まされない▼二つの事件は発生時間が午前11時半前後なのが共通するが、問題は共に国政選挙の街頭演説の場が狙われたこと。欧米の選挙は大規模な講堂などに有権者を集めて演説を行うのが一般的という。入り口で手荷物や身体検査がしやすいためで、日本でも街頭演説を見直す必要がありそうだ▼もう一つ気がかりなのが、安倍元首相を銃撃した山上徹也被告(42)の影響力。結果的に事件により政治家と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との密接な関係があぶり出され、ネット上では山上被告を英雄視する投稿もある。だが動機はどうあれ、凶行自体は決して許されない。今回も同じである。(健)