岸田首相が訪れる大分市の街頭演説会場で、手荷物検査を受ける人たち=16日午後
岸田首相が訪れる大分市の街頭演説会場で、手荷物検査を受ける人たち=16日午後

 その場に相応した行動というものがあるならば、岸田文雄首相の街頭演説を前に爆発物を投げ込んだとされる男の行動は、それからは最も遠い▼聴衆のど真ん中で大それたことをするまで「異様さ」と言わぬまでも「違和感」を持った人は周囲にいなかったか。言論を、民主主義を守らねばならないと唱えるのと同時に、容疑者の足取りを含めた詳細な検証が待たれる▼警備当局が、安倍晋三元首相への銃撃事件を受けて警備体制を厳格に見直したのは想像に難くない。ましてや現職の首相である。結果だけを見て言うならば、そこにも何かしらの不備があったわけであり、改善の余地があるか、あるいは人知だけでは限界か、議論は尽きない▼できることは全てなし終えた、という意味の四字熟語「能事畢矣(のうじおわれり)」。自然や人生のありようを説いた中国古代の儒教経典『易経』によると、「この世で起こりうることを、全て占うことができる」という達人の言葉だから、準備が全ての危機管理の世界でこのような心境に至るのは、真に至難の業だ▼世界の要人が来日する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の開幕まで、あすで1カ月。綿密に築いてきた警備計画を、この土壇場で見直すのは容易ではない。しかし、群衆の心の中を全て読むことができない限り、あらゆる可能性を検討するしかない。表には決して出ず、報われない人たちの苦悩を思う。(万)