ブラジル出身のピアノ奏者セルジオ・メンデスは1960年代のボサノバ・ブームの火付け役の1人だ。ヒット曲「マシュ・ケ・ナダ」はポルトガル語で歌う曲としては異例の世界的な人気を獲得。ジャズサックス奏者スタン・ゲッツらがヒットさせた「イパネマの娘」と並び、ボサノバを代表する曲となった。
「マシュ・ケ・ナダ」はブラジルの歌手ジョルジ・ベンの作品のカバーで、66年発表のアルバム「セルジオ・メンデス&ブラジル66」に収録。女性歌手2人のコーラスを取り入れたアレンジが秀逸だった。歌とパーカッションが目立つが、セルジオのピアノもいい。特にイントロの演奏はわくわくする。
子どもの頃、ラテン音楽好きの父に聴かされて知った。ポルトガル語の歌が新鮮に感じられたものだ。アレンジを変えて何度もリメークされたが、66年のバージョンが一番好きだ。
 
67年発表のアルバム「ルック・アラウンド」収録の「ルック・オブ・ラブ」もお気に入り。これはダスティ・スプリングフィールドが歌った曲のカバーだ。近年、テレビ放送で見た映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年、米国)でオリジナルが流れてきて懐かしくなり、よく聴くようになった。女性コーラスで、しんみりと聴かせる曲だ。
そんなセルジオはもともとジャズピアノ奏者ホレス・シルバーらに憧れ、ジャズに傾倒した。サンバなどブラジル音楽とジャズが融合したボサノバに軸足を移していき「マシュ・ケ・ナダ」のヒットで一躍注目されるのだが、ジャズへの思いは強かったに違いない。
ブレーク前の61年のアルバム「ダンス・モデルノ」ではシルバー作曲「ニカズ・ドリーム」をカバー。オリジナルと違ってホーンがなく、ピアノが前面に出るが、ジャズのままだ。
ブレーク後の69年のアルバム「イエ・メ・レ」ではドラム奏者アート・ブレイキーの演奏で知られる定番曲「モーニン」をカバー。ただし、女性コーラスを前面に出し、かなり大胆なアレンジでポップ色が強く、同じ曲とは思えないほど。しっかりと「セルメン・サウンド」に仕上げている。
 好きなジャズの曲を素材にしつつ、多くの人に楽しんでもらえるよう、どう料理するか。「ニカズ・ドリーム」と「モーニン」のカバー曲の趣の違いに、進化の過程を想像させられる。
  (志)
 
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