4月26日、ホワイトハウスで共同記者会見に臨むバイデン米大統領(右)と韓国の尹錫悦大統領(ゲッティ=共同)
4月26日、ホワイトハウスで共同記者会見に臨むバイデン米大統領(右)と韓国の尹錫悦大統領(ゲッティ=共同)

 韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領がバイデン米大統領と首脳会談を行い、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭に、米国の「核の傘」提供を軸とした拡大抑止強化のための共同文書「ワシントン宣言」を発表した。

 韓国大統領が国賓として米国を訪問したのは、12年ぶりとなる。蜜月ぶりの背景に、安全保障環境悪化への危機感があるのは明白だ。

 自国の抑止力を同盟国の安全保障にも提供するのが「拡大抑止」の考え方だ。宣言では、核・ミサイル能力を着実に向上させている北朝鮮に対し、核兵器を含む米戦力で対抗する姿勢を強調した。極めて現実的な対応と言える。

 一方、宣言を口実に北朝鮮が軍事行動に出て、緊張が高まることも予想される。北朝鮮をけん制しつつ、いかに対話のテーブルへ引き出すか。今後は、そのバランスが重要となる。

 今回の首脳会談で示された方向性は、尹政権発足以降の米韓関係に沿ったものだ。尹氏が就任直後の2022年5月、ソウルで行われた米韓首脳会談では「米国のあらゆる防衛能力を用いた、韓国に対する米国の拡大抑止」を確認した。これに基づき、米韓は規模を拡大して合同軍事演習を行うなど、軍事的な協力強化を進めてきた。

 今回の会談でも、核兵器を搭載できる米国の戦略原子力潜水艦を韓国に寄港させることや、米韓の核戦略計画に関する協議体の新設などに合意した。米原潜が韓国へ派遣されるのは、冷戦が続いていた1980年代以来という。

 首脳会談後の共同記者会見で、バイデン氏は北朝鮮から米国や同盟国への核攻撃があれば「(北朝鮮の)政権の終わりを招く」と述べた。宣言でも「韓国を核攻撃すれば、米国は迅速かつ圧倒的で決定的な対応をとる」と明記した。

 米韓がことさらに拡大抑止を強調するのは、韓国で広がる核保有論を意識してのことだ。韓国の世論調査会社が4月に行った調査では、韓国が独自に核兵器を保有することに「賛成」する回答が56・5%を占め、「反対」の40・8%を上回った。

 こうした世論の根底にあるのは、「有事の際に米国は韓国を守らないのではないか」という不信感だ。北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発によって米本土を攻撃できる能力を持てば、米国は自国の安全を優先し、朝鮮半島には介入しないとの疑念がある。そうした不安を払拭し、核拡散を防ぐために、韓国防衛へ関与する姿勢を明確化させた。

 だが、北朝鮮は米韓に対する反発を強めている。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の妹、金与正(キムヨジョン)党副部長は、米原潜の韓国派遣などに対抗して「より決定的な行動」を取ると表明。戦争抑止に失敗した場合には先制攻撃を行うことを、核戦力の「第二の任務」と位置付け、その準備をより完璧に整えるとしている。今後、ミサイルの発射や7回目となる核実験に踏み切る可能性もあり、そうなれば事態の泥沼化は必至だ。

 米韓とともに日本も連携強化を進めるだろう。だが、地域の安定を図るには3カ国が一体となって、北朝鮮との対話の糸口を模索することも重要だ。

 「核をもって核を制する」という考えだけでは、北朝鮮問題の解決につながらないという過去の教訓を、決して忘れてはならない。