国の子ども関連政策を総合的に担う「こども家庭庁」が4月、発足した。同時に政府は「次元の異なる少子化対策」実現に向け、国民の負担増を伴う財源確保策を6月までに取りまとめる本格的な議論に入った。
こども家庭庁が「司令塔」として国民の期待に応えるには、少子化傾向へ歯止めをかける結果を出していく必要がある。その前提となる「子ども予算倍増」を、岸田文雄首相は国民へ約束した通り実行できるのか。まずはそれが試金石となる。
政府は、児童手当の所得制限撤廃や多子世帯への増額、育児休業給付引き上げなどの対策を列挙した試案を公表。だが、兆単位とされる財源には触れなかった。首相をトップとする新たな会議が、対策の優先順位や財源確保策を議論し、6月の経済財政運営の指針「骨太方針」までに、子ども予算倍増の大枠を示す。
財源のめどが立たなければ政策の規模も実施時期も固まらない。お金の議論を後回しにすることは本来なら避けるべきだった。明確な根拠を示しながら必要な予算規模、公平な負担方法を国民に分かりやすく提案するのが政府の当然の責務だ。
日本の子ども予算を対国内総生産(GDP)比で欧州主要国並みに引き上げるには、新たな安定財源確保が欠かせない。
与党からは国債発行を求める声も上がっているが、鈴木俊一財務相は「償還財源がない中では負担の先送りだ」とくぎを刺す。いかに「未来への投資」の理屈を掲げても、国を挙げて出産、子育てを支援していく当の子どもたちに費用のツケを回しては本末転倒だ。
政府内では、幅広い年齢層が加入する公的医療保険を軸に社会保険料へ一定額を上乗せして徴収する案や、企業からの拠出金で賄う案が取りざたされる。少子化を克服して現役世代が増えれば、社会保険財政が改善され、子育てに直接関係がない高齢者、単身者、企業にも恩恵が及ぶという論理だ。
だが問題点も多い。少子高齢化で保険料負担は増加傾向にあり、保険料上乗せに理解を得られるのか。公的年金は大多数の高齢者が保険料を支払っていない。介護保険の保険料を納めるのは40歳以上だ。これらへの上乗せだと、幅広い世代の公平負担にはなりにくい。しかも保険料負担が増せば、人々の可処分所得が減り、官民挙げた賃上げへの取り組みに逆行する。
病気、介護、失業、老後の暮らしなどリスク別に、困った時に備えて加入するのが社会保険だ。本来の目的とは異なる少子化対策に充てるのは「流用」と指摘されても仕方あるまい。政府は、国民が納得できるよう丁寧に検討を進めるべきだ。
全国民から薄く広く集め、景気にも左右されにくい安定財源としては消費税が想起される。首相が消費税増税を否定した故に、国民の負担感がより少ない保険料上乗せにシフトするのか。「国難」として少子化に立ち向かうなら、消費税増税の議論もタブーのままにはできないのではないか。
こども家庭庁の業務は少子化対策のほか、いじめ、不登校、児童虐待、子どもの貧困、ヤングケアラー、性被害、保育所や幼稚園に通っていない「無園児」への対策など多岐にわたる。世間受けする「器づくり」で終わらぬよう、負担増でも国民がうなずくような仕事をしてほしい。