第71回全国植樹祭が30日、大田市の国立公園・三瓶山北の原で開かれる。島根に限らず林業を巡る状況は極めて厳しい。しかし「コロナ禍」を克服する中で、森林の役割があらためて見直されつつある。大会を前に、課題と展望を探った。(大田支局・錦織拓郎)
5月中旬、新緑の葉の間から陽(ひ)が差す三瓶山の中腹。重機が土を削る低音が響く。
作業を見守るヘルメット姿の林達夫・大田市森林組合専務(64)が「道をつくること。それが大事だ」と力を込めた。
▽境界線が不明
木材の伐採や搬出、山の手入れといった観点から、なくてはならない路網。道のおかげで「ヤマ」に手入れが行き届く。
だが、道づくりの前に立ちはだかる壁がある。不在地主と、それに付随する境界線の不明の問題だ。
市域の77%、約3万3500ヘクタールの山林を有する大田市でも、全貌が把握できていないほどの不在地主がいる。死去や代替わり、転居で連絡が取れないケースが少なくない。
所有者が分からなければ境界も不明瞭で、土地に手を出すことができない。
国は2019年度、所有者が管理できない山林を市町村や民間業者が代わって管理する「森林経営管理制度」の運用を導入した。財源は、24年度から年間1人千円の森林環境税として国民に負担を求める。不在地主や境界線の問題解決は、この成否に大きく関わるのだ。
▽時間との勝負
大田市森林組合は19年、境界線の確定を専門に取り組む3人体制のチームを新たに設けた。山を歩き、住民に聞き込みをしながら地図と突き合わせる。林専務が「時間との勝負」と話す作業は、難航している。
島根県全体で民有林49万2千ヘクタールのうち、約2割に当たる11万8千ヘクタールが荒廃森林とされる。県林業課の試算では、09年時点より5千ヘクタール拡大した。
手をこまぬいているわけにはいかない。大田市は三瓶町や富山町にまたがる約200ヘクタールの山林を「モデル地区」として、路網の整備や所有者の意向調査に乗りだした。市森づくり推進室の大国一寿室長は「成功事例を作り、他地域の林業振興につなげたい」と話す。
雨や土砂崩れによる災害防止を含め、県内の「ヤマ」が発揮する公益的機能評価額は概算で年1兆7千億円にも上る。
この恵みは、人の手が入ってこそ成り立つ。島根大の伊藤勝久名誉教授(林業経済学)は「荒廃林は宝の持ち腐れを意味する。自治体は実態に即した計画を作らなければ好機をつかめない」と指摘する。地道ではあるが、一歩ずつ前へ進むしかない。