ゴールボールの体験会でゲームを楽しむ参加者
ゴールボールの体験会でゲームを楽しむ参加者

 視覚障害者のスポーツ「ゴールボール」の体験会が5月20日、出雲市上塩冶町の上塩冶スポーツセンターであった。競技先進地の滋賀県ゴールボール協会のスタッフ3人が講師になり、小学生から50代まで市民30人がルールや基本動作を学び、ゲームを通し、視覚障害やパラスポーツについて理解を深めた。取材した記者が当日の様子を伝える。
 (ニュースセンター・佐野卓矢)

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 ゴールボールは、「アイシェード」という目隠しをした3人1組の2チームがゴールを背に向かい合い、交互にボールを投げ合って得点を競う競技。ロンドンパラリンピックでは日本女子チームが金メダルに輝き、東京パラリンピックでも銅メダルを獲得した。この日、講師を務めたのは滋賀県ゴールボール協会会長で日本ゴールボール協会の技術部長の西村秀樹さん(61)、同県協会副会長の赤渕義誉さん(56)、同協会所属で、全国大会で3位に入った高橋覚規さん(33)の3人。赤渕さん以外は視覚障害者。西村さんは自身で「日本で一番長い」と言う競技歴31年で、日本ゴールボール界の「レジェンド」と呼ばれる存在だ。

滋賀県ゴールボール協会のメンバー。左から西村秀樹さん、高橋覚規さん、赤渕義誉さん

 参加者を前に、最初に西村さんが競技の概要を説明した。コートの大きさはバレーボールと同じ9メートル×18メートル。ボールはバスケットボールとほぼ同じ大きさだが、重さは倍以上の1.2キロ。鈴が入っており、選手は守備の際、この音を聞き分けてボールの位置を予測して止める。コートにはラインが引かれているが、ラインの下には糸が通されていて、選手はこの糸の出っ張りとゴールポストの位置で自分の場所を確認するという。ルールはシンプルだが、目の見えない状態でやるとどうなるのだろうか。「最初は怖いが、目を隠していてもこんなことができるのかと、最後には成功体験を作って帰ってほしい」と、西村さんが参加者に呼びかけた。

コートのラインの下には糸がはさまれており、選手は出っ張りで位置を確認する

 準備運動の後、基本動作の練習へ。参加者はまず、ボールの止め方を練習した。ゴールの高さは1.2メートルで、幅は9メートル。選手同士がぶつからないよう、前衛と後衛に分かれて3人で守るため、1人が3m~3m15cm程度をカバーする必要があるという。ボールが来た瞬間を察知し、体の側面を床に付けて伸ばす。簡単そうに見えるが、参加者の中でも普段運動をしていない大人たちはしっかり足が伸びきらず、苦戦しているように見えた。西村さんがお手本で、流れるように素早く体を伸ばすと「すごい!」と会場から拍手が起こった。

体を伸ばし、守備の練習をする参加者。大人はきつそう・・・
「競技歴31年の技」という、流れるようなフォームできれいに全身を伸ばす西村さん

 次は投球。「ボウリングのように」というアドバイスを得て、普通の状態では真っ直ぐに問題なくボールを放れていたが、アイシェードをすると一変。立ち位置や方向が分からず、観客席に向かってボールが放り込まれることも。その後、ゴールポストを触ったり、すり足で移動し、足の裏でライン上の糸の出っ張りを感じて位置を確認することで、少しずつコツを覚え、ボールがゴール枠をとらえるようになった。

ボールを投げる参加者
アイシェードをかけると、コート外に投げ込むことも

 そしていざ実戦へ。3人1組のチームに分かれてミニゲームを戦うことになった。西村さんら滋賀県ゴールボール協会のメンバーもサポートで加わり、珍プレー好プレー続出の白熱した戦いになった。「珍」では、再びボールが観客席を直撃。ボールがゴールに入ってから飛びつく人も。好プレーでは、伸ばした足や手で見事に相手ボールをはじくナイスセーブや、角度のつけたボールで見事に相手守備陣の隙間を突くゴールも生まれた。1プレー1プレーに歓声が上がった。

ミニゲームでボールを投げる参加者
ナイスセーブを見せる参加者
好セーブを見せる参加者

 最後は、体験会の主催者で、2021年の東京パラリンピック前に島根大医学部(出雲市塩冶町)眼科学講座の医療スタッフらで結成したゴールボールチーム「スサノオアイズ」と滋賀県ゴールボール協会の3人による「エキシビジョンマッチ」が行われた。2年間、隔週で練習を積んできたスサノオアイズも鍛えただけあり、序盤は善戦。そこに全国3位の実績を持つ高橋さんの高速ボールが襲う。体を一回転して放たれたボールは、野球の打球のように転がりゴールに吸い込まれた。

高速ボールを投げる高橋さん(左)

 さらに滋賀県チームは「秘策」を使う。鈴の音が小さくなるよう、ボールに特別な回転をかけて守備の動揺を誘った。また、ボールを投げる際に場所を定位置から移動して放つなど、高度な駆け引きで、終わってみれば11-3で滋賀が大勝。「まいりました」スサノオアイズは、競技の奥深さを味わわされたようだった。

 体験会を終え、西村さんは参加者に「目が見えている普段の生活と違う感覚で競技をして、いろいろ発見があったと思います。今日をきっかけにゴールボールの輪が広がっていくことを願います」とあいさつ。参加者にも笑顔が見え、魅力を体感したようだった。家族で参加した出雲市立高浜小の片山楓花さん(11)、花香さん(9)姉妹、原李歩さん(11)、杏歌さん(8)姉妹は口々に「見えなくて怖かったけど楽しかった」「またやってみたい」と話し、スサノオアイズのメンバーで昨年5月からゴールボールを始めたインドネシア人留学生のアンディー・マスディバーさん(35)も、トップ選手の技を見て「とてもいい機会だった。これからも練習を続けていきたい」と目を輝かせた。

体験会を終え、記念撮影をする参加者

 ゴールボールの競技人口はまだ国内で200人程度。アイシェードをかければ、視覚障害者も健常者も同じ土俵で競えることが大きな魅力だ。西村さんが話すように、競技の輪が広がり、共生社会に向けて、お互いへの理解がつながっていくことを期待したい。