活用に向けて国レベルで賛否両論が渦巻くチャットGPTを含む大規模生成モデル(大量のテキストデータを使って作られたAI)の利用について、島根大医学部医療情報学講座の津本周作教授(60)(専門は医用人工知能)が会長を務める人工知能学会は4月25日、可能性と課題の双方を指摘する声明文を発表した。声明文の中で、大規模生成モデルは「大きな技術的進歩」と認め、「可能性は極めて大きい」とする一方で、遵守すべき指針があるとし、発展に向けて必要なことを社会、教育の場、研究コミュニティーの3分野に分けて訴えた。(Sデジ編集部・林李奈)

インタビューに答える津本周作教授=出雲市塩冶町、島根大出雲キャンパス

 社会に対しては、大規模生成AIに「社会規範や倫理にそぐわないものを生成する可能性」が指摘されていることを受け、生成モデルの回答を鵜呑みにせず、長所や短所を理解したうえで利用すべきだと求めた。教育の場に対しては「一律的な利用の禁止は何も生み出さない」と指摘。利用を否定しない一方で、積極的に活用する場面と禁止すべき場面を考えることが重要とした。研究コミュニティーに対しては「野心を持ちつつも節度ある研究開発」を求め、研究者の創造的な活動を支援するために積極的な利用を推奨すべきだという考えを示した。

 津本教授に声明文を出した経緯や大規模生成モデルの利用のあり方を聞いた。

「チャットGPT」の画面(手前)と、ソフトを開発した米新興企業オープンAIのロゴマーク(共同)

―なぜ、人工知能学会として声明を出すことになったのか?
  初めて学会で声明文を出すという話が出たのは4月16日の人工知能学会の理事会の前打ち合わせ時です。その前打ち合わせの時、人工知能学会の理事で、言語処理学会に所属している教授から、「言語処理学会では既に3月にチャットGPTに関する専門セッションを開いたが、人工知能学会では何か(声明などを)出さないのか」と言われたことがきっかけです。私も以前から、チャットGPTの技術が世間で話題になっており、学会員が英文の校正に使用していると聞いていました。このため、専門的に人工知能を研究する自分たちの学会で、チャットGPTのシステムや原理を理解している立場からチャットGPTについて発信をするべきだと考えました。

 6月6日にも人工知能学会の大会があります。その中で、日本は生成AIを起爆剤にできるのか?」をテーマに議論します。人工知能学会としては、今回の声明だけではなく今後さらに生成AIについて発信をしていこうと思います。

―社会に向けての声明で、大規模生成AIの「社会規範や倫理にそぐわないものを生成する可能性」について言及している。具体的にどのような懸念があるのか。

 マイクロソフトが2016年に公開した、Tay(テイ)という人工知能がありました。このAIは、ツイッターで他の利用者に返信して交流したり、ツイートで自分の考えを述べたりしていました。しかしある時から、発言が非道徳的になりヒトラーを...