インド人エンジニアと、インド現地法人の設立について話し合う西村洵輝社長(左)=松江市朝日町、ブレイブスタジオ
インド人エンジニアと、インド現地法人の設立について話し合う西村洵輝社長(左)=松江市朝日町、ブレイブスタジオ

 国連の推計で今春、インドの人口が約14億2600万人に達し、中国を抜いて世界一になった。新型コロナウイルス禍により停滞していた山陰両県とインドとのビジネスも再起動し始めた。人口減少で人手不足や市場縮小が深刻化する中、インドのパワーを取り込み、活路を見いだそうとする両県官民の動きを追った。(政経部・今井菜月)

 「1週間で20人もの応募があったんですよ」。システム開発を手がけるブレイブスタジオ(松江市朝日町)の西村洵輝社長(35)が目を輝かせた。

 2023年度中をめどに、IT人材が豊富にいる西部の都市プネに開発拠点となる現地法人の設立を目指し、インド人エンジニア4人を採用する計画だ。求人サイトで募集したところ短期間で予想外の応募があり、IT大国の圧倒的なマンパワーを実感した。

 かたや島根県情報産業協会の22年度調査では、同県内のIT企業77社のうち50社がエンジニア不足。本来必要な人数1928人に対し、11%に当たる211人が不足する厳しい状況だ。

▼若い労働人口

 インドの平均年齢は28歳で、若い労働人口が多い「人口ボーナス」が続く。働き手は今後10年間、毎年1千万人のペースで増えるとのデータもある。

 分厚い労働人口が成長をけん引し、国内総生産(GDP)は22年の5位から、27年に日独を超え3位になる見通しだ。西村社長は、現在は日本の半分程度のシステム開発単価も上昇し、5~10年後には逆転するとみる。市場としての潜在力は大きく、将来営業部隊を整え外貨を稼ぐ考えで、「今までと同じでは縮小するのみ。人が豊富で成長を続けるインドの可能性に懸けた

い」と力を込める。

▼視察団再開へ

 松江市や米子市など中海・宍道湖・大山圏域の産官学は連携し、16年度からIT分野を中心にインド人材の受け入れを始めた。日印で人的交流を活発化させ、人材確保や地元企業の成長を後押しするのが狙いで、これまでに計43人が来日した。160社・個人でつくる山陰インド協会は、コロナ禍で中断していた経済視察団の派遣を23年度に再開し、交流を拡大させる計画だ。

 「コロナ禍で細った関係を復活させるため、のろしを上げる年にしたい」。松江市の上定昭仁市長は今年をインドとの関係回復元年に位置付ける。その原動力の一つとするのが、地元発のプログラミング言語「Ruby(ルビー)」だ。

 インドでは近年、経済成長の起爆剤となるスタートアップ(新興企業)が数多く誕生。企業価値が10億ドル(約1400億円)超の未上場企業「ユニコーン」も100社を超え、世界3位の規模を誇る。

 松江市在住のエンジニアが開発したRubyは作業の効率性や迅速性に優れ、スタートアップと相性がいいとされる。Rubyを使い世界中でECサービスを提供する、カナダのショッピファイ社の技術者は「最も人間工学的で使い勝手が良い」と高く評価する。

 世界のエンジニアに公開され、日ごと改良していけるオープンソース言語Rubyの利用者は100万人以上おり、ウェブサイト上で使われる言語の中のシェアは5・3%との調査結果もある。

 今後、さらに利用者が増えて言語が進化すれば、多くの専門エンジニアを擁し、世界最大のRubyコミュニティーがある松江の存在感が高まる。高度な技能を備えた人材が集まる好循環にもつながり得る。上定市長は「ITを入り口にインドとの往来が活発になれば、あらゆる可能性が生まれる」と力説した。