衆院特別委の閉会中審査で答弁する加藤勝信厚労相=5日午後
衆院特別委の閉会中審査で答弁する加藤勝信厚労相=5日午後

 マイナンバーカードへの健康保険証、年金情報、公金受取口座の誤登録などのトラブルを巡り、衆院特別委員会が閉会中審査を実施した。関係閣僚は、情報総点検本部を設置して対応していると繰り返したが、普及を急いだ国の拙速対応と指導不徹底に起因する問題が露呈した。

 私たちが最も不安を覚えるのは、健康保険証の機能を持たせたマイナ保険証へ来年秋に一本化し、現行の保険証が廃止になることだ。政府は方針に固執する一方、目先をそらす狙いなのか、マイナカードの名称変更案まで出た。このような当座しのぎでは済むまい。問題点の是正と再発防止の方策を早急に確立すべきだ。

 日本の行政のデジタル化が諸外国に後れを取っていることは新型コロナウイルス対応で鮮明になった。政府は、受診履歴に基づく質の高い医療実現などのため、現行の保険証を廃止し、IC(集積回路)チップ付きのマイナ保険証に移行する必要があると強調する。

 立憲民主党の長妻昭政調会長は「デジタル化は喫緊の課題」とマイナンバー制度の意義は認めた。その上で「最大の問題は従来保険証の廃止を決めたことだ。マイナ保険証を落とすと個人の医療情報が漏れかねない。従来保険証を持ちたい人になぜ残してくれないのか」と追及。強行すれば、反発でデジタル化がかえって遅れるとの指摘は国民の感覚に近いだろう。

 これに対し、加藤勝信厚生労働相は「医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めないと、日本の医療を守れない。マイナ保険証が行きわたれば従来保険証は必要なくなる」と既定方針で揺るがなかった。

 一方、政府はマイナ保険証としての使用を想定し、認知症高齢者らを対象に暗証番号なしでもマイナカードの申請や交付を認める方針を表明した。高齢者施設側からも秘匿性の高い暗証番号を管理することへの懸念の声が出ていたためだ。しかし疑義を呈さざるを得ない。例外カードを新設するより、事情のある人には現行保険証の継続使用を認める方が、対策としてシンプルではないか。

 マイナ保険証の不具合により「無保険扱い」となった患者が医療費10割負担を求められる問題も起きている。きちんと保険料を納めている人に対してあってはならない。厚労省は、本来の3割の窓口負担で済むよう対策を急ぐとしているが、来年秋の一本化へ作業を急いだ結果、このような事態を招いたと政府は反省すべきだ。

 河野太郎デジタル相は、2026年にも実施されるマイナカードのデザイン変更に関連し「マイナンバーカードという名前をやめた方がいい」と先に表明。立民の西村智奈美代表代行は「名前を変えたら問題が解決するのか」と迫った。河野氏は「マイナンバーのシステムとカードは別物ということを広報していきたい。今は検討していない」と釈明したが、名称変更が一連のトラブル解消にどういう効果を期待できるのか納得できる説明はなかった。国民をけむに巻く印象だけが残ったと言わざるを得ない。

 岸田文雄首相はマイナ保険証への一本化は「国民の不安を払拭する措置完了が大前提だ」と柔軟姿勢も示唆したが、関係閣僚らは今回、かたくなな姿勢に終始した。参院での次回審査は首相自身が出席すべきではないか。