井田幸昌さん(IDA Studio提供)
井田幸昌さん(IDA Studio提供)
Portraitシリーズの1作で、知人の写真家ヨーガン・アクセルバルを描いた「Jorgen(ヨーガン)」(IDA Studio提供)
Portraitシリーズの1作で、知人の写真家ヨーガン・アクセルバルを描いた「Jorgen(ヨーガン)」(IDA Studio提供)
「End of today(エンド・オブ・トゥデイ)」シリーズの一作で、大山を描いた風景画(IDA Studio提供)
「End of today(エンド・オブ・トゥデイ)」シリーズの一作で、大山を描いた風景画(IDA Studio提供)
井田幸昌さん(IDA Studio提供)
Portraitシリーズの1作で、知人の写真家ヨーガン・アクセルバルを描いた「Jorgen(ヨーガン)」(IDA Studio提供)
「End of today(エンド・オブ・トゥデイ)」シリーズの一作で、大山を描いた風景画(IDA Studio提供)

 鳥取県日吉津村出身で、国内外で活躍する新進気鋭の画家井田幸昌さん(33)=東京都=が、国内美術館では初めての個展「パンタ・レイー世界が存在する限り」を米子市美術館(米子市中町)で22日から開く。「一期一会」を創作テーマに、人や風景との出会いの瞬間を力強く表現する芸術世界が広がる。

 父は彫刻家の井田勝己さん。幼少時はアートへの関心は強くなかったが、高校時代、京都の美術館でブラマンクの油彩画「丘の上の家の風景」を見たことが転機となった。衝動的なタッチながら画家の息づかいや風の匂いまでありありと感じられ「絵画でこんなことができるのか」とショックを受けた。

 画家になろうと決意し、集中的に絵を描いた。2012年に東京芸術大の油画専攻に入ってからは「日本で一番うまくなってやる」との思いで年間に千枚は描いたという。鍛錬は実り、大学院在学中の16年には現代芸術振興財団が主催する若手作家向けの「CAF賞」で審査員特別賞を受賞し、翌17年にはロンドンで個展を開催した。

 18年には米国の経済誌「フォーブス」日本語版で「世界を変える30歳未満」の30人に選ばれ、21年には実業家の前沢友作さんが、作品を国際宇宙ステーションに飾ったことでも話題を集めた。

 創作テーマ「一期一会」にあるのは、身近な人でさえ毎日少しずつ変化し、同じ出会いは二度とないとの考え。「時間は常に移ろう。過ぎ去ってゆく一瞬一瞬で感じたリアリティーを表現したい」と、人や物との関係性の内で生じた感覚や記憶を作品に表現しようと試みている。

 個展タイトル「パンタ・レイ」は「万物は流転する」を意味するギリシャ語で、自身の活動に通じる言葉として選んだ。会場に並ぶ代表作「Portrait(ポートレート)」シリーズは、井田さんが出会ったり、影響を受けたりした人々を活写した肖像画だ。絵の具を厚く塗り込めた抽象的にも見えるタッチだが、人物の鮮烈な存在感が見る者に迫る。

 出会った風景や人々を思い起こしつつ、絵日記をつづるように描いてきた「End of today(エンド・オブ・トゥデイ)」シリーズでは、大山の眺めを叙情をたたえて表現した風景画が見られる。

 「奈良の大仏のように、何千年も残る作品を作りたい」と意欲に燃える井田さんにとって、鳥取は出発の地だ。「同じ土地で同じ空気を吸った人々にぜひ見てほしい」と開幕を心待ちにする。

 約60点を8月27日まで展示する。一般1300円など。初日は午前10時10分から、井田さんのギャラリートークがある。 (佐貫公哉)