海士町役場の青山達哉さん(右)と大人の島留学の事業について意見を交わす移住者ら=島根県海士町福井、菱浦港
海士町役場の青山達哉さん(右)と大人の島留学の事業について意見を交わす移住者ら=島根県海士町福井、菱浦港
海士町役場の青山達哉さん(右)と大人の島留学の事業について意見を交わす移住者ら=島根県海士町福井、菱浦港

 全都道府県で日本人の人口が減る中、島根県海士町が地域外から受け入れた人材に一定期間地場産業で働いてもらうことで、人口減少に歯止めをかけている。町はこうした来島者を「滞在人口」というカテゴリーに位置づけ、事業を展開。同じ離島の西ノ島町と知夫村にも拡大した。年間100人程度の滞在者のうち契約終了後も2割がとどまっており、地域活力維持の新しい形として注目される。(白築昂)

 滞在人口の獲得は、移住や定住を最終目的とはせず、人材が地域内外を「還流」することで都市から地方への人の流れを生む仕掛けとして、2020年度に開始。ターゲットを20~30代の若者に設定し、1年間の「大人の島留学」と3カ月間の「島体験」という短期の2コースを用意し、1次産業や観光業などの地元業者とマッチングして担い手不足の解消を進める。

 事業を実施する島前ふるさと魅力化財団によると、両コース合わせた受け入れ人数は20年度21人、21年度55人、西ノ島町と知夫村に拡大した22年度は107人(うち海士町95人)と年々増加。23年度は7月現在で89人(同63人)に上る。

 海士町では、滞在をきっかけに住民と交流し、地域課題に目を向けるきっかけも生まれ、20年度4人、21年度10人、22年度は21人が終了後に島内で就職するなど定住につながった。

 人口減対策として、島根県をはじめ各自治体はこれまで、地域外からU・Iターンする「定住人口」、観光で訪れる「交流人口」に加え、地域と緩やかに関わる「関係人口」の増加に着目し対策を打ってきた。「滞在人口」は、一定数の流入者が入れ替わり、島内全体の人口規模を維持しつつ、まちづくりや産業の担い手不足解消を担う新たな概念だ。

 海士町職員で、財団で事業を担う「還流促進特命官」の青山達哉さん(27)=海士町出身=は「本来は島にいなかったはずの人たちを呼び込むことで地域や組織に人材の流動性、多様性が生まれる」と強調。数年かけて事業を検証し、全国にモデル展開するビジョンを描く。

 町人口は3月末で2198人。自然減、社会減で毎年数人~数十人単位で人口減が進むが、今後、滞在人口から一定数が定住につながれば「人口増」への反転が現実味を帯びる。

 この動きに島根県も着目しており、しまね暮らし推進課の江角学課長は「取り組みは画期的なもので、他市町村が関心を持つようであればしっかりとサポートしていく」とする。

 

 「SAN/INSIDE」では、山陰の課題をピックアップし、人口減少が進む中で、私たちが実現すべき地域の姿を考えます。