人口減少社会で減少にあらがい、新しい人の流れとともににぎわいや活力を生み出す。「人口17万人台維持」を掲げ、増加の芽も育つ出雲市で考えた「地方都市のミライ」。衣食住の基盤とともに、夢や誇りがある街、変化をいとわず、本気になって取り組む住民と行政。持続可能な地域とは、それらが一体となってつくり上げていくことを、先行3市の事例は教えた。(出雲総局報道部・松本直也)
▽子育て支援、出生者数増
未来をつくる子どもたち、ひいては子育て世代に優しい街こそ目指すべき姿ではないか。そんな問題意識で訪ねた兵庫県明石市は実際、総人口で顕著な増加を見せる。
住民基本台帳に基づく人口動態調査(1月1日時点)によると、2014年から23年まで毎年増え続け、29万7057人から30万5404人に。出生者数の14年2570人、18年2819人という伸びからも、18歳までの医療費、第2子以降の保育料など「5つの無料化」をうたった子育て支援の効果は見て取れる。
子どもの医療費でみると、山陰両県でも、高校や中学まで無料化の動きはあるが、出雲市の場合、現在小学生までの入院・通院の負担軽減を10月から中学生まで広げるにとどまる。
課題となるのは財源確保だが、明石市は公共工事の見直しによって捻出。当時市長だった泉房穂さんは、事業化の優先順位を、(1)しないといけない(2)したほうが良い(3)してもしなくても良い(4)してはいけない-に分類し、(2)は代替や緊急性、費用対効果を勘案、(3)以下は見送る、という明確な方針を掲げ、政策を進めた。
神戸市の西隣。かつ大阪市から電車一本という立地も「ベッドタウン化」の成功要因ではあるが、分岐点はそれ以前に、街の特性をしっかり見極めたことだろう。広い土地が確保しにくく工場や大学の誘致に向かない。選ばれるにはどうするか。「子育て支援でいく」と決まれば、あとはやるだけだった。
▽空き店舗対策で社会増へ
総人口が出雲市より5万人少ない約12万5千人の鹿児島県霧島市は、転入者が毎年、出雲市とほぼ同じ5千人から6千人ある。13年から20年まで転出が転入を上回る「社会減」が続いたが、20年に空き家や空き店舗を生かし街を再生するプロジェクトを始め、21年から「社会増」を続ける。
出雲市の転入の大きな割合を占める外国人を、22年の社会増からそれぞれ除くと、出雲369人、霧島317人となり、総人口比では霧島が上回った。
空き家、空き店舗対策に力を入れた霧島の成功の秘密は、外からやって来た若者や地元住民が「一緒に盛り上げる」という機運づくりだ。もともとイベントを仕掛け、にぎわいづくりに取り組んできた市は、プロジェクトの中で、若者たちを対象にさまざまなスクールやセミナーを開催。人と人がイベントなどでつながっていく中で、「人」を育て、またつながる。好循環が街の空気を変えていった。
地方の中心市街地は空き家の増加、人口減少という共通の課題を抱える。霧島を含め全国で街の再生に取り組んできたリノベリングの清水義次代表取締役は「出雲市は出雲大社があり、商店街がある。他の地域と比べて認知度があり、スタート地点から違う」と話した。
自らの特性を見極めた明石市と同様の視点で、現状分析から始め、こう続けた。「あとは行政がいかに腹をくくり、きっかけをつくり、粘り腰で継続できるかだ」
出雲市を含む4市で最も総人口が多い宮崎市も、人口減少が続く中、19年から社会増、20年から日本人のみでも社会増となった。直近の22年は504人の社会増で、819人の社会減だった16年から約1300人も増えた。
15年度以降、中心市街地の空き家、空き店舗をオフィスとして活用し、IT関連企業を集積。若者の雇用の場をつくり、人口流出を食い止め、Uターンを促進した。10年間で新規雇用「3千人」の目標は7年で達成し、今も増えている。
面白いのは市の担当者らが企業誘致の際の売り文句の一つで「ゴルフ、サーフィン」をPRし、効果があったと感じていることだ。
デジタル社会の到来で地方の可能性は広がった。ネットでつながり、オフィスを東京に構えなくてもいいという物理的な条件がクリアされた今、より求められるのは街の魅力を含む生活環境だ。充実した医療機関、子育てや教育の環境、豊かな文化や伝統、人の魅力や個性、温かさ、その全てが売りになる。
総人口17万3835人(人口動態調査、1月1日時点)の出雲市。うち4670人を占め山陰両県最多のブラジル出身者ら外国人と、住民たちの「多文化共生」や、商店街の空き店舗活用の「出店ラッシュ」など新しい動き。それらを含め、UIターンの市民や進出企業の経営者らが、これまでの取材に対し「わくわくする」と言い表した街の空気にも、企業や人を呼ぶ力がある。未来に続く扉の鍵は既にそれぞれの手に握られている。
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