7月のアトランタ・オープンでプレーする錦織圭選手=アトランタ(共同)
7月のアトランタ・オープンでプレーする錦織圭選手=アトランタ(共同)

 「脂っこい」ことを四国地方の方言で「むつこい」と言うそうだ。そこから名が付いたとされるのが、白身のトロと呼ばれる高級魚アカムツ。この辺りでは別名ノドグロの方が通りがいい▼沖合底引き網漁の休漁期が明け、浜田漁港で水揚げが始まった。今漁期から新造船が導入され、新しい荷さばき所も本格稼働した。関係者の期待は大きかろう▼あの年の競りの活況を思い出す。2014年、テニスの全米オープンで準優勝した松江市出身の錦織圭選手が帰国後の会見で「ノドグロが食べたい」と発言し、注目度が一気に高まった。買い注文が殺到し、「(競り値が)高過ぎて買えんようなった」。地元仲買人の恨み節も聞いた。人気の功労者は彼を置いて他にはいまい▼あれからもう9年。すごいのは一時のブームではなく、浜田市のふるさと納税の返礼品で今なお断トツ人気の絶対王者に君臨していることだ。一方、プロスポーツの世界でトップクラスに居続けるのは並大抵のことではない。錦織選手は度重なるけがに苦しみ、表舞台から遠ざかっている。2年ぶりの四大大会で出場予定だった全米も左膝の痛みでぎりぎりまで悩んだ末に欠場した。断腸の思いだったろう▼もしかすると、選手として脂が乗ったピークは過ぎたのかもしれない。それでもまた戻ってくると信じている。コートの上でも逆境に強い男だった。まだ終われない、終わらない。(史)