自民党を離党した秋本真利衆院議員が、受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
政府が再生可能エネルギー普及の「切り札」とする洋上風力発電を巡り、事業会社「日本風力開発」に有利な国会質問をするよう前社長から請託(依頼)を受け、総額約6100万円の賄賂を受け取ったとされる。
秋本議員は実際にたびたび質問し、質問後に同社が希望していたとおりに政策変更されたこともあった。賄賂を背景にした秋本議員の言動が、再エネ政策をゆがめたのではないのか。
政府は質問との関連性を否定するが、国を挙げて取り組むべき脱炭素政策に疑念が生じた事態は極めて深刻だ。政府は早急に信頼回復に努めなければならない。政策変更の経緯を徹底して検証し、秋本議員の影響の有無を明確にすべきだ。
捜査によると、秋本議員が前社長から受けた国会質問の請託は2019年2月以降数回に及び、同年3月~今年6月に、3千万円を無利子無担保で借りたほか、計約3100万円の提供を受けたという。特捜部は全額を賄賂と認定した。
最初の賄賂授受とされた時期は、秋本議員が後押しした再エネ海域利用法施行(19年4月)の直前に当たる。同法は洋上風力発電事業推進のルールを定めたもので、特定の海域について事業者を公募し、入札で選ばれた事業者が発電を許可される仕組みだ。
施行前には秋本議員が国会で、青森県海域での発電事業について、過度の規制をしないよう政府にくぎを刺す質問をしたことが分かっている。日本風力開発はこの海域での参入を希望していた。
さらに請託や賄賂との関連性が疑われる秋本議員の質問は続く。
第1弾の大規模プロジェクトとなった秋田県沖事業の21年末の入札では、大手商社を中心とする企業連合が売電価格の安さを評価する基準に基づき、独占的に落札した。
落札できなかった日本風力開発は強い不満を抱いたとされる。翌年2月には秋本議員が「売電価格よりも運転開始時期の早さを評価すべきだ」と同社の意に沿う質問をした。
3月には、既に第2弾の公募手続きが始まっていたのに政府が基準の見直し方針を表明。10月に質問どおり早期稼働を重視するように変更した新評価基準が公表された。
賄賂の一部とされる1千万円が、議員会館事務所で秋本議員に渡されたのは、その直後だ。
これだけの事実関係が存在する。政府が「有識者会議やパブリックコメント(意見公募)の手続きを経た上での結論」と政策変更の正当性を主張するだけでは、国民の理解は得られまい。
国会質問を巡る汚職は、国権の最高機関の審議をカネで売買するのに等しい犯罪だ。質問は議員の職務権限とする司法判断は既に定着している。
リクルート事件で就職協定問題の国会質問に絡む受託収賄罪に問われ、有罪が確定した元衆院議員に対し、東京地裁判決はこう厳しく指摘した。
「民主主義の根幹を危うくする行為であることは明らかだ」
今回も重大な事件である。秋本議員は比例代表選出だ。事件を受けて自民を離党するのなら、議員辞職するのが筋ではないか。自民も「離党したら関係ない」で済むはずがない。