一定収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立した。単身では年金を含む年収200万円以上が対象で2022年度後半から引き上げられる。
歯止めがかからない少子高齢化で現役世代は減少が続く。社会保障制度を持続可能にして将来に引き継ぐには、高齢者に手厚い給付を見直し、現役世代の負担軽減を図ることはやむを得まい。
ただ2割負担導入による現役世代の負担抑制効果は、22年度に1年間実施した仮定で1人当たり700円にとどまる。改革は入り口にすぎず、能力のある高齢者には今後も負担増を求める論議が続くことは不可避だ。
一方、75歳以上は一般的に持病を抱える人が多いが、新型コロナウイルス感染拡大により受診を控える傾向が強まった。そこへ今度は窓口負担が2倍になる人も出てくる。月々の自己負担に上限額を設ける制度はあるものの、一層の受診控えにより病状の悪化を招くことがないよう、政府は医療界と連携して目配りを強めてほしい。
75歳になった人が加入する後期高齢者医療制度の窓口負担を除く財源は、公費で5割、現役世代の保険料で4割、75歳以上の保険料で1割を賄う。その医療費総額は21年度に18兆円。うち現役世代の負担は6兆8千億円の見込みだ。団塊世代が75歳以上になり始める22年度に7兆1千億円、全員75歳以上になる25年度には8兆1千億円に膨らむ予想で、現役世代の負担は一層厳しくなる。
ところが今回の改革は現役世代の負担を年720億円、1%程度抑えるだけで焼け石に水だ。このままでは少子高齢化のピークは乗り切れまい。
医療費支出を大きく削減できない以上、公費=税金、保険料、窓口負担の三つを増やす以外に方法はない。立憲民主党は窓口負担を据え置く代わりに高所得の高齢者の保険料上限引き上げを主張してきた。菅義偉首相も「保険料の賦課限度額見直しも含め、しっかり議論していくことが大事」との認識で、余裕がある高齢者には今後も負担増を求める可能性が高い。
今回は自民、公明両党の妥協で年収200万円以上を2割負担としたが、いずれ線引きの見直しで対象を拡大することも検討課題となるだろう。
コロナ対策の10万円給付が遅れた反省から、預貯金口座をマイナンバーと一緒に事前登録できる仕組みが設けられた。今は任意だが、各個人の口座がマイナンバーとひも付けられるようになれば、年金頼みで所得は少ないが金融資産を多く持つような高齢者には、高所得者と同様に応能負担を求める意見が強まるに違いない。
今を生きる私たちが負担増を避けて医療財政の改善を先送りすれば、ツケを回される次の世代は高負担、低給付に苦しむ。さらに、コロナ対策の巨額支出で国の借金は1千兆円の大台を超えており、これも単純計算で国民1人当たり約800万円のツケとなって将来に回る。子や孫たちへの負の遺産はこれ以上増やすべきではないだろう。
菅首相が「10年は考えない」と言った消費税10%超への引き上げもいずれ議論せざるを得まい。ただし年金が目減りする一方、春から介護保険料もアップして多くの高齢者の家計は厳しい。弱者を切り捨てる改革が許されないことも当然だ。