今国会の会期末が迫る中、与野党の党首討論が2年ぶりに開かれた。論戦のテーマになったのは、政府の新型コロナウイルス感染症対策と東京五輪・パラリンピック開催の是非だった。
菅義偉首相(自民党総裁)からは、コロナの感染拡大につながりかねない五輪の開催意義や条件について納得いく説明を聞きたかったが、国民の共感を得るには程遠い内容だったと言わざるを得ない。五輪での感染防止対策にも依然、不安を残している。
このまま五輪に突入し、感染「第5波」を呼び込む事態になれば、首相は「主催者ではない」と言い逃れるのではなく、全責任を負う覚悟を持ってもらいたい。
東京五輪の目的に関し菅首相は、57年前の東京五輪での体験を基に「子どもや若者に希望や勇気を与えたい」と強調。「東日本大震災から復興した姿、世界が新型コロナに立ち向かい、団結して乗り越えられたことも発信したい」とも述べた。
そうした希望を抱くのは当然だが、残念ながら、首相以外でも語ることができる理屈であり、実際、そうした主張が繰り返されてきた。
首相はいまだにコロナ禍で事業継続を断念したり、親しい人が病院で治療を受けられず命を落としたりしている中で、国民がもろ手を挙げて賛同してくれると考えているのか。現状認識が甘いと指摘されても仕方あるまい。
ワクチン接種は確かに進んでいる。首相は「今年10月から11月にかけて、必要な国民には全て終えたい」と表明。今月末には「4千万回は超えることができる」とし、重症化しやすい高齢者への接種により医療逼迫(ひっぱく)が「大幅に改善される」との楽観的見通しも示した。
しかし、政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は「7、8月の段階で接種率が上がっても、感染を抑える集団免疫が実現するとの考え方は早すぎる」と指摘。現在の感染状況での五輪開催に疑問を呈し、国民に協力してもらうため、開催意義と感染リスクを最小限にする方策を明確にするよう訴えている。
菅首相は党首討論で「国民の命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら開かないのは当然だ」と従来の答弁をなぞるだけで、首相の言動からは尾身氏ら専門家並みの強い危機感は伝わらなかった。
五輪での感染防止対策では、来日する大会関係者を半減して、さらに縮小する方向で検討していることや、海外メディアの行動管理を徹底することなどを挙げたが、首相が言う「安心、安全な大会」になる保証はない。
党首討論では、首相と立憲民主党の枝野幸男代表ら野党4党首が対決したが、国会の取り決めに従い、1時間足らずで終了した。時間の制約から議論が消化不良に終わった感が強い。衆院選が近づく中で、党首同士が政見を十分に競える時間を確保すべきではなかったか。党首討論の在り方を見直してほしい。
枝野氏はコロナ対策の補正予算編成などのため、16日に閉会予定の国会の大幅な会期延長を要求した。菅首相は否定的な考えを示したが、「五輪開催ありき」でなければ、開催可否や感染拡大への対処方針について、国会で徹底した議論が引き続き必要だ。十分な日数を取った会期の延長を首相が決断するよう強く求めたい。