参院予算委で答弁する杉田水脈総務政務官(当時)。過去の差別的な言動を取り消し、謝罪した。手前左端は岸田首相=2022年12月2日
参院予算委で答弁する杉田水脈総務政務官(当時)。過去の差別的な言動を取り消し、謝罪した。手前左端は岸田首相=2022年12月2日

 任命直後から政治資金問題が指摘されるような議員を閣僚に起用したり、人権侵犯の認定を受けた議員を党の役職に充てたりする。これでは適格性を見極めた人事とは言えず、政権発足2年を迎えた岸田文雄首相(自民党総裁)の任命権者としての見識が疑われよう。

 岸田首相は先月、第2次内閣の再改造と党役員の改選を行った。昨年8月の内閣改造後には「政治とカネ」問題などを受けて4人の閣僚が辞任した。このため、今回は政治不信を招かぬよう慎重な人選が首相には求められていたはずだ。

 ところが、初入閣させた加藤鮎子こども政策担当相、松村祥史国家公安委員長のほか副大臣2人の政治団体が、親や親族が代表を務める会社に事務所の賃料を支出していたことが判明。両氏側は「相場に見合った賃料」などと主張したが、身内への支払いは政治資金の「還流」に当たると以前から批判されていた。

 前内閣でも、当時の寺田稔総務相と秋葉賢也復興相が妻らに事務所の賃料を支払っていた問題が浮上。別の疑惑と相まって首相は事実上の更迭に踏み切ったが、その際「任命責任を重く受け止める」と語ったことを忘れてしまったのか。

 ほかの閣僚らにも不適当な事案が発覚した。公選法は国と契約を結ぶ事業者が国政選挙に関して寄付することを禁じている。だが、高市早苗経済安全保障担当相が代表の政党支部は、2021年の衆院選と近接する時期に寄付を受領。西村康稔経済産業相や萩生田光一政調会長らにも同様の問題が明らかになった。

 選挙とは関連せず、国からの事業請負を知らなかったとしても、政治倫理上見過ごせず、返金でよしとはできない。首相が代表の選挙区支部にも政治資金の処理に不手際があったことを真摯(しんし)に反省するなら、資金の取り扱いについて徹底調査を指示すべきだろう。

 さらに強い疑念を抱かせたのは、自民党が杉田水脈衆院議員を党環境部会長代理に登用したことだ。今後ますます重要性を増す環境政策に関与するポストである。この人事の決定前には、杉田氏のアイヌ民族への侮辱的なブログ投稿が、札幌法務局から人権侵犯と認定されたと報道されていた。

 杉田氏は国連の会議への参加者について「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」などと表現。性的少数者を「生産性がない」と月刊誌でやゆし、性暴力を巡っては「女性はいくらでもうそをつけますから」と述べたこともあった。

 首相は前回の内閣改造時に杉田氏を総務省の政務官に抜てきしたが、国会内外で非難の声が高まり、更迭に追い込まれた。こうした経緯があるのに、自民党の役職に据えるというのは、すべてを不問に付すに等しい。

 しかし、人権侵犯の認定に対し、謝罪も反省の意思も公の場で示していない杉田氏は、もはや議員の資格さえないと言わざるを得ない。それでも擁護するのは、故安倍晋三元首相とも重なるとされる杉田氏の支持層への配慮を優先させているためとの見方が専らだ。21年10月に就任した首相は「多様性が尊重され、全ての人々が互いの尊厳を大切にする社会を目指す」と明言していた。その言葉の真贋(しんがん)が問われていると自覚すべきだ。