「一帯一路」の国際会議で演説を終えたロシアのプーチン大統領。右は中国の習近平国家主席=18日、北京の人民大会堂(共同)
「一帯一路」の国際会議で演説を終えたロシアのプーチン大統領。右は中国の習近平国家主席=18日、北京の人民大会堂(共同)

 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が提唱から10年の節目を迎え、中国は参加国を集めた国際会議を開いた。ロシアのプーチン大統領が主賓として参加し、中ロの結束をうたい上げた。

 見えてきたのは、中国中心の「運命共同体」としての経済圏だ。これでは米国や欧州諸国は一層離れていく。建前とする開放的な経済圏からは程遠い。米欧との対抗ではなく、国際協調の姿勢を示すべきだ。

 一帯一路は2013年、習近平国家主席が陸と海の「シルクロード経済圏」を提唱したのが始まりだ。巨額の保有外貨を活用して対象国のインフラ開発を支援し、中国経済に生かす狙いがあった。150カ国近くが参加し、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立して、関係国への融資も行ってきた。日米は参加を見送ったが、日本は事業の透明性などを条件に参加する意欲を表明したこともあった。

 習氏は会議で「国際協力で成果を上げた」と強調した。中国の関係国への投資は2400億ドルに達し、中国と欧州を結ぶ鉄道輸送の強化やアジア横断鉄道建設など一定の成果を上げたのも確かだ。ただ、米中対立の激化とともに同経済圏は米欧との対抗手段の性格を強めている。基軸通貨米ドルに対抗する人民元通貨圏の拡大という狙いもはっきりしてきた。

 こうした中、ウクライナ侵攻で子ども連れ去りに関与したとして国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状すら出ているプーチン氏を招いて厚遇したことは、米欧と中ロの分断を一層際立たせた。プーチン氏は首脳会談で「経済圏の成功」を絶賛する一方、「共通の脅威はロ中関係を強固にする」と述べ、米欧への対抗姿勢を隠さなかった。

 習氏も国内会議では、米欧は体制や価値観が全く異なるとして長期にわたる「闘争」の必要性を繰り返し語っている。

 中国政府は、一帯一路を世界平和のための「人類運命共同体」理念の実践と主張しているが、中国と政治的に対立すれば「経済的威圧」をかけられるのが現実だ。実質的には「中国運命共同体」であり、価値観の異なる米欧が参加に慎重になるのは当然だろう。

 当初、経済的恩恵を期待して一部欧州諸国も参加したが、最近ではイタリアが脱退の意向を表明。日本で参加すべきだとの声も聞かれなくなった。

 一帯一路は中国の巨額融資で債務返済ができなくなる「債務のわな」に陥る国があり、「新植民地主義」との批判も出ている。恩恵を受けているのは東南アジアの一部やロシアに限られる。中国は国内経済の悪化もあり、大盤振る舞いをやめ「質重視」に修正し始めた。

 一帯一路には、強権的な中国的統治観を広める意欲もうかがえ、実際にカンボジアやアフリカ諸国など歓迎する国は独裁的な政治体制の国が多い。今回、欧州連合(EU)から首脳が参加した国は権威主義的政権が続くハンガリーぐらいだ。

 バイデン米政権がインド、中東、欧州を結ぶ経済回廊構想を打ち出すなど、米国の対抗的措置も誘発した。中国は、自国の価値観を押し付けるような行動を自制し、一帯一路が民主主義国も安心して加われるようなオープンな仕組みにするよう見直すべきだ。米欧との対立が激化すれば世界経済がブロック化に向かう懸念が強まる。