参院徳島・高知選挙区の補欠選挙で落選が決まり、支持者らにあいさつして回る自民党新人の西内健氏(左)=22日夜、高知市
参院徳島・高知選挙区の補欠選挙で落選が決まり、支持者らにあいさつして回る自民党新人の西内健氏(左)=22日夜、高知市

 与野党対決の構図になった衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の補欠選挙は、自民党候補の1勝1敗に終わった。衆院補選は勝利したものの、立憲民主党の候補と接戦になり、参院補選は野党系の無所属候補に大敗した。

 補選前はいずれも自民が保持していた議席である。岸田文雄首相は、3年目に入った政権運営への不信感が、有権者の投票先とともに、過去最低になった投票率に表れたと謙虚に受け止めなくてはならない。

 選挙戦で与野党が重点を置いて訴えたのは、物価高騰を受けた経済対策だった。首相は物価上昇による消費税などの税収増を「国民に還元する」と宣言。還元策の柱として期限付きの所得税減税を検討するよう自民、公明両党幹部に指示した。

 国民生活を考えれば、経済対策の早期策定が求められてはいたが、首相が所得税減税に言及したのは投開票日の2日前だった。有権者の歓心を買おうとする思惑が、首相にあったのは否定できまい。

 共同通信の直近の世論調査で岸田内閣の支持率は32・3%と内閣発足後、最低を記録。逆に不支持率は最高の52・5%に達し、補選でも自民候補の苦戦が伝えられていたからだ。

 世論調査では、家計支援のため所得税減税が「必要だ」との回答が過半を占め、首相指示は世論に添っていた。

 にもかかわらず自民候補にとって厳しい戦いになったのは、有権者が経済対策を政権浮揚の手だてに使っていると感じ取ったためだろう。

 参院補選の投票率低迷は、1票の格差是正を目的に隣接県を統合する「合区」制度の導入が背景にある。

 しかし、衆院補選でも落ち込んでおり、首相の掲げる経済対策を積極的に信任できないという意思表示と言えよう。

 野党はそれぞれ経済対策をまとめている。国会論戦を通じ、実効面で野党の対策に優位性が判明すれば率直に認め、取り入れるべきだ。

 岸田政権からの民意の離反は、政治への信頼を揺るがした問題に対する首相の態度も影響したはずだ。

 参院補選は、自民議員が暴力行為で辞職したことに伴い実施された。辞職後に離党したとはいえ、多額の税金を使う補選を招いた事態への真剣な反省が首相にはみられなかった。

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡っては補選告示後、教団の解散命令請求に踏み切った。だが、細田博之前衆院議長(島根1区)らの教団との不明朗な関係の解明には終始後ろ向きだった。

 木原稔防衛相については、衆院補選の応援演説の発言が、中立でなくてはならない自衛隊の政治利用と批判されたものの、発言を撤回したことで首相は不問に付した。

 首相は補選結果について「真(しん)摯(し)に受け止める。今後の対応に万全を期したい」と述べた。その「対応」が政治不信の解消につながらなければ、次期衆院選に向けて政権の求心力を回復するのは難しい。

 一方、立民は参院補選で中心になって支援した無所属候補が議席を得たが、衆院補選では公認候補が敗れ、立民自体は自民に代わる選択肢になり得ていないことを示した。投票率の低さも一因は、有権者の期待を集められない立民にあることを自覚する必要がある。