衆院本会議で所信表明演説をする岸田首相=23日午後
衆院本会議で所信表明演説をする岸田首相=23日午後

 時代の転換期の課題に対応するには、目に見える「変化」への対症療法ではなく、底流にある根本的な要因を把握し、その解決に取り組むことが必要だ。

 岸田文雄首相は23日に行った臨時国会の所信表明演説で、国内外情勢の「歴史的な転換点」との認識を強調し、「変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る」と述べた。

 特に「経済、経済、経済」と連呼して、「供給力の強化」と「国民への還元」の二つを「車の両輪」として経済対策に重点を置く考えを示した。

 だが、首相が示した具体策は対症療法でしかなく、効果も疑われるものだ。特に議論になるのは還元策として打ち出した減税になろう。

 首相は演説では「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会での早急な検討を指示する」とだけ述べた。与党幹部には20日に期限付きの所得税減税の検討を指示している。国会論戦の土台となる演説で、なぜ明確に説明しないのか。

 減税措置に関して自民党幹部からは「1年間が常識」との発言が出ている。防衛費の大幅増額を賄う増税はその間先送りされる方向だが、少子化対策の財源確保策と併せて、減税の先に増税や負担増が来るのは明らかだ。日々の生活に苦しむ国民の助けになるのか。

 物価対策を検討するのであれば本来、その要因である原油高や円安への対応を急がなければならないはずだ。しかし、円安是正策への言及はなかった。

 野党の側も給付や減税を主張している。立憲民主党は3万円の「インフレ手当」を、日本維新の会は消費税率の一律8%への引き下げなどを求める。聞こえがいい話ばかりではなく、財政赤字が積み上がる中で今、取り組まなければならない対策は何なのか。国会で真摯(しんし)な議論を求めたい。

 「供給力の強化」に関しては低成長の下での「コストカット型経済」からの完全脱却に向けて、3年程度の「変革期間」に集中的に取り組むとした。ただ基礎となる経済情勢認識には疑問がある。首相は30年ぶりの大幅賃上げを強調したが、その背景は物価高や人手不足の問題ではないか。設備投資の伸びも、国際社会の分断を理由にした経済安全保障で国内回帰が進んだ側面が指摘される。

 高齢化や人口減少、国際的な分断という課題にこそ今、取り組まなければならない。

 首相は、人口減少や国民ニーズの多様化への対応として、デジタル化の促進に取り組むと強調。「デジタル行財政改革」を起動させると述べた。まずはトラブルが相次ぐマイナンバー制度の信頼回復が先決だろう。

 外交では「人間の尊厳」を中心に据え、世界を分断・対立でなく協調へ導くとした。その理想に異論はない。

 ただ、激しく動く国際情勢の中で、日本がどれだけ発言力を示せているのか。むしろ防衛費を大幅増額し、自衛隊と米軍の運用一体化をさらに進める安保政策は、地域の緊張を高める懸念を拭えない。安保政策も真剣に議論すべきだ。

 首相は演説で「先頭に立って職を賭して粉骨砕身取り組む覚悟だ」と述べた。国の最高指導者が常に職を賭して政権運営に当たるのは当然だろう。内閣支持率は低迷し、22日の衆参2補選でも1敗を喫した。言葉だけの決意表明では国民の信任は取り戻せまい。