日本大アメリカンフットボール部のグラウンド=11月29日、東京都世田谷区(共同通信社ヘリから)
日本大アメリカンフットボール部のグラウンド=11月29日、東京都世田谷区(共同通信社ヘリから)

 アメリカンフットボール部の薬物事件を巡り日本大は理事会で、酒井健夫学長と沢田康広副学長の辞任を決定した。林真理子理事長は減給処分とした。さらに逮捕者が相次いだアメフト部について、廃部とする方針を明らかにした。創部83年で、大学王者を決める甲子園ボウルで21度の優勝を誇る名門の消滅は学内外に衝撃を広げている。

 廃部には賛否があるが、臭い物にふたをして逆風を避けようとしているとの印象を拭えない。部内で薬物がどの程度まで広がっていたのか。一部の部員による乱用だったのか、それとも多数が手を出していたのか、全体像をうやむやにしたまま部全体を切り捨てた。

 加えて、弁護士らの第三者委員会から「ガバナンス(組織統治)の機能不全」を厳しく指摘された林氏ら上層部の誰一人として事件への対応を巡る自らの責任を明確にしていない。それどころか、沢田氏は辞任を強要されるなどパワハラを受けたとして、林氏に1千万円の損害賠償を求め提訴。メンツにこだわり、混乱は深まるばかりだ。

 林氏は通り一遍のおわびのコメントを出しても、正面から大学運営の立て直しを語ることはなく、再生の道筋は見通せない。事件で浮き彫りになった希薄な危機管理意識と場当たり的な対応をいつまで引きずるつもりなのか。保身と隠蔽(いんぺい)を一掃するため何ができるかを真剣に模索すべきだ。

 日大アメフト部は2018年、定期戦で関西学院大選手に背後から強烈なタックルをして負傷させた「悪質タックル」で批判を浴び、監督が辞任。出場資格停止処分になった。21年には田中英寿前理事長が脱税事件で逮捕・起訴され、ワンマン体制など大学運営の問題が次々と噴き出した。

 不祥事が続き、22年7月に改革の目玉として理事長に就任したのが、作家の林氏だった。日大で初めて女性理事を登用するなどイメージ回復に取り組んだが、そのさなかに薬物事件は起きた。その年10月、アメフト部員の大麻使用を疑わせる情報が保護者から寄せられた。監督は部員に簡単な聞き取りをし、複数部員による使用の情報もあったのに「問題はない」と説明。今年7月に沢田氏が寮の立ち入り調査に乗り出し、大麻のような植物片が見つかった。

 ところが沢田氏は警察に届けず、12日間も保管。発見翌日に報告を受けた酒井氏も、1週間後に知らされた林氏も、特段の指示をしないまま理事会にも伝えなかった。

 8月初めに1人目の部員が逮捕された直後の記者会見で、沢田氏は「自首させるのが大学の責務」と弁明。林氏は「隠蔽とは一切思っていない」とかばったが、批判が高まると、沢田氏に辞任を迫り「補助金も欲しいし、たたかれたくもない」とこぼしたとされる。

 私学助成金は3年連続で全額不交付となっている。そんな中で、上層部の一人でも社会常識に沿った判断を示し、アメフト部内の薬物乱用の実態をきちんと見極めていたなら、部存続の道を探ることもできただろう。

 廃部を含めて事件の影響はあまりに大きく、不安と混乱の中に置き去りにされた学生や保護者、OBらのことを考える際、林氏に対する減給処分が相当かについても疑問が残る。そうした結論に至った議論の経緯をつぶさに説明し、理解を得ることが求められよう。