小林真一郎氏
小林真一郎氏

 山陰中央新報社の島根政経懇話会、米子境港政経クラブの定例会が18、19日に松江、米子各市であった。三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏(57)が「2024年の経済展望」と題して講演し、将来の景気回復は賃金、物価の上昇による経済の好循環実現が鍵を握ると強調した。要旨は次の通り。

 今年の経済情勢を展望すると、インバウンド(訪日客)需要の増加や自動車の生産制約の解消、企業の設備投資意欲の強さといったプラス材料があり、緩やかな回復が続くと考える。一方で物価上昇や人手不足などマイナス材料も多く、これらの下振れリスクが顕在化すれば回復が著しく鈍化する可能性もある。

 景気回復を維持するためには、雇用、賃金の増加が個人消費拡大や物価上昇、業績改善の流れをつくる「成長と分配の好循環」が達成されるかどうかにかかっている。現時点では雇用改善と賃金引き上げまで進んでおり、これを消費増加と業績改善につなげられるかどうか正念場を迎えている。

 その上で、鍵を握るのが今年の春闘だ。23年の賃上げ率は3・6%と1993年以来の水準を記録したが、連合が今年の春闘の統一要求で定期昇給分を含め5%以上を目標に掲げるなど、さらなる賃上げの機運が高まっている。一方でボーナス支給額の伸びは鈍く、年収ベースでは上がっていないのが実情だ。

 企業が得た付加価値を人件費に回す割合を示す「労働分配率」をみると、大企業を中心に低水準であることから、賃上げの余地はあるとみている。中小零細は分配率が高く引き上げの余力に乏しいと思われるが、賃金を1年で一気に上げるのではなく、毎年少しずつ着実に上がる環境を整えることが、成長と分配の好循環実現につながる一つの要素となる。(石倉俊直)