衆院本会議で施政方針演説を行う岸田文雄首相=30日午後
衆院本会議で施政方針演説を行う岸田文雄首相=30日午後

 岸田文雄首相は施政方針演説で「自民党は変わらなければならない」と述べ、党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた政治改革に「決意と覚悟」を表明した。普通なら通常国会の開会直後に行われる演説が、衆参予算委員会での政治資金問題の集中審議に首相が応じた翌日に回され、政権の窮地を象徴する展開となった。演説で首相は派閥について「私自身が先頭に立って、お金と人事から完全に決別する」と訴えた。

 しかし批判を受けても、現職首相として2年以上派閥会長を続けたのが岸田氏だ。昨年11月の国会で野党の会長辞任要求を「過去にいくつも例はある」と拒否した本人が、翌月唐突に派閥を離脱し、年明けに派閥解散を決めた。態度を180度変えた理由を、首相は「事件で国民に疑念を持たれた」と言う程度で納得いく説明がない。これでは脱派閥の決意が本物か確かめようがない。

 首相は自民党の派閥を「お金と人事のための集団」と定義した。確かに、パーティーなどで集めたカネを配り、閣僚や党、国会の役職を世話することで同志を糾合するのが派閥だ。だがもっと突き詰めれば、お金と人事で集めた「子分」が数の力で「親分」を首相の座に押し上げる機能こそが派閥の本質だろう。

 だからこそ、政権維持へ権力基盤が必要な首相は、最近まで派閥会長の椅子に執着したのだろう。そうした自らの政治行動を率直に総括し、政治刷新へ転換した証しを示さない限り、国民の首相への信頼は戻らない。

 「証し」とは裏金の実態解明と規制強化で結果を出すことに尽きる。民主主義が多数決で成り立つ以上、考えの近い政治家がグループ化するのは止められまい。ならば金権政治や権力乱用が不可能になるルールを課すほかあるまい。

 ところが集中審議の首相答弁には、改革の熱意も具体策も欠落していたと言わざるを得ない。

 実態解明を巡っては「党幹部に関係者の事情聴取を行う枠組み作成を指示した」と述べたが、政治資金収支報告書を訂正した議員以外は聴取対象者も把握できていなかった。議員の責任を強化する連座制導入の政治資金規正法改正も「各党と議論する」と言うにとどめ、実現は約束しなかった。

 象徴的だったのは、政党が議員に支給し使途公開不要な政策活動費の見直しだ。派閥からの還流資金を議員側が「政策活動費だと思った」として収支報告書への不記載が横行したことから「裏金の温床」とされている。だが首相は使途公開要求を「政治活動の自由に関わる問題なので真摯(しんし)に議論したい」とごまかしてしまった。これで政治改革の展望が開けるのか。

 演説で首相は、能登半島地震、デフレ経済脱却、緊迫する国際情勢などを挙げ「日本は内外共に正念場を迎えている」と切迫感をあらわにした。

 確かに首相が言うように、国民は賃上げ中心の経済再生を熱望する。「日本社会の最大の戦略課題」とする人口減少問題への対応を誤れば、国の将来が揺らぐ。巨額の借金を抱える国の財政健全化からも逃げるわけにはいかない。「政治の安定なくして政策の推進はなく、国民の信頼なくして政治の安定はない」と言う首相は、直ちに身を切る政治改革を断行し本来の課題にエネルギーを注ぐべきだ。