2014年9月の衆院本会議で所信表明演説をする安倍晋三首相。奥左は石破茂地方創生相(ともに当時)
2014年9月の衆院本会議で所信表明演説をする安倍晋三首相。奥左は石破茂地方創生相(ともに当時)

 「島のサザエカレーを年間2万食も売れる商品へと変えたのは島にやってきた若者だ。若者たちのアイデアが次々とヒット商品につながり、人口2400人ほどの島には、10年間で400人を超える若者たちがIターンでやってきている」▼2014年9月の臨時国会。安倍晋三首相(当時)は所信表明演説で島根県海士町の事例を挙げ、「若者が(新事業に)チャレンジしやすい環境を整える」と訴えた。政府が「地方創生」を打ち出した直後で、地方にスポットが当たる期待が少なからずあった▼あれから今年で10年を迎える。岸田文雄首相はきのうの施政方針演説で訪日外国人客対策や農業発展に触れる一方、地域の好事例の紹介はなし。東京一極集中是正が進まない中での総括もない。「地方創生なくして日本の発展はない」との言葉がむなしく響く▼地方創生が叫ばれたのは、全国896自治体が将来消滅する可能性があるとした、「日本創成会議」の14年の衝撃的な試算に端を発す。当時座長を務めた増田寛也氏(現日本郵政社長)ら有識者でつくる「人口戦略会議」が先日、2100年に日本の総人口8千万人を目指すべきだと岸田首相に提言した▼実現には、人口減のスピードを緩和させる「定常化戦略」と、現在より小さい人口規模であっても多様性に富んだ成長力のある「強靱(きょうじん)化戦略」が不可欠だ。再び人口減問題に光を当てなければならない。(吏)