反社会的な活動が批判を浴びる団体を追及する立場の人物が、過去に相手側の世話になっていたとしたら「任にあらず」と言わざるを得ない。そんな構図の疑惑が表面化した。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を東京地裁に請求した盛山正仁文部科学相が、前回衆院選で教団関連団体の選挙支援を受けていた疑いが報じられた。
これまで盛山氏は関連団体の会合に1度出席したことは認めていたが、選挙支援は否定していた。解散命令請求の実務は文化庁が担うが、請求権限者と教団側の密接な関係が事実なら厳正さを損なうのは明らかだ。
東京地裁で近く、徹底的に争う姿勢の教団と文化庁双方の意見を聴く初の審問が開かれ、審理が本格化する。解散命令は宗教法人の「死刑」に相当する措置であり、手続きに一点の曇りもあってはならない。
盛山氏は「記憶はなかった」などと曖昧なことを言うが、きちんと根拠を示して説明すべきだ。疑惑を払拭する説明ができないようなら、辞任してもらうしかない。
一部報道によると、盛山氏は2021年10月の衆院選公示直前、地元の神戸市で旧統一教会関連団体の会合に出席し、推薦状を受け取った。その際、教団側が掲げる政策に賛同する旨の推薦確認書にも署名した。
選挙期間中は教団信者でもある関連団体の会員10~20人が連日、盛山氏の事務所を名乗って有権者に電話で投票を呼びかけたという。団体側はこうした支援状況を盛山氏の事務所に報告していたとされている。
盛山氏は選挙区で敗れたものの比例復活を果たし、23年9月の内閣改造で文科相に就任した。その1カ月後に旧統一教会の解散命令を請求した。
教団との接点に関する22年の自民党調査には、関連団体の会合に1度出席し、あいさつしたとだけ回答。大臣就任時の記者会見でも同様の説明をした。同年の共同通信のアンケートには選挙支援は否定していた。
意図的に隠していたのではないか。そう疑わざるを得ない。国会で今回の疑惑を追及された盛山氏の答弁は、不自然極まりない。
「推薦状を受け取ったのではないかと思う」と曖昧に説明し「記憶はなかった」としながら「選挙支援を依頼した事実はない」と断言する。そうかと思うと「事務所への活動報告は確認できない」と再び曖昧になる。
国民が納得できる内容には程遠い。盛山氏側が依頼したかどうかはともかく、選挙支援を受けた疑いは濃厚だ。これでは、ごまかしているとの印象が拭えない。
このまま十分な説明ができなければ、解散命令請求の審理を巡って、文化庁側の主張・立証について盛山氏が何らかの判断をするたびに、疑いの目が向けられることになろう。審理に悪影響が出かねない。
深刻な事態にもかかわらず、岸田文雄首相は野党の更迭要求を拒否し、「自ら説明責任を果たしてもらいたい」と繰り返すだけだ。
そもそも教団と対峙(たいじ)する文科相に、既に教団との接点の一部が分かっていた盛山氏を安易に起用して、現在の状況を招いたのは岸田首相ではないか。任命責任は極めて重い。事実関係を解明し、対処を決断する義務がある。