スマートフォンに手をやる統一教会2世の女性
スマートフォンに手をやる統一教会2世の女性

 幼少期に見た光景は今も頭から離れない。雑多で手狭な事務所内に置いてあるホワイトボードに、びっしりと書かれた信者の名前。その横には数字とともに「K」の文字が並んでいた。

 Kは献金を意味する隠語だ。「この人からは○○万円は取れそうだ」。両親や信者は生臭い話を深夜2時、3時まで延々と続ける。松江300、出雲200…。徴収相手はエリア分けがしてあり、ファクスには本部からの状況報告やノルマ達成の連絡が絶え間なく入ってくる。その空間にあるソファで眠った。

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 島根県在住の30代女性の両親は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の合同結婚式で出会った。両親の仕事は「公職者」と呼ばれる教団職員。女性は「祝福2世」として生まれ育った。全国を転々とする中、たどり着いたのが島根だ。

 「1人で寝てて」。小学校に入学すると毎日、両親はそう言い残し、出かけていった。いわゆるネグレクト(育児放棄)は日常だ。

 教団から両親に支払われる給料はほぼ献金へと消えた。自宅の冷蔵庫はいつも空っぽ。レンジさえない。1人、部屋に残り、炊飯器に残るくず米に、みそやかつお節を乗せて食べた。今、思い返せば、ひもじいとしか言えない状況だった。

 両親がやっていたのは「霊感商法」だ。世間のイメージ通り、つぼや印鑑を高額な値段で売り歩く。売れるはずもなく、母親は実家に金を無心し続けた。それも献金に消え、手元に残る金はなかった。

 合同結婚式で出会った両親に愛情の結びつきはなく、家庭は冷め切っていた。
 「家族愛がなんなのか、それさえも分からない」

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 小学校に通い始めると、自分の家庭の”異常さ”に気付いた。クラスメートの前で親の仕事を紹介する発表の時間。前日に父親は「神様の子として、(みんなを統一教会に伝道する)よい機会だ」と背中を押したが、当日、演台に立って両親の仕事や教団の教義ついて熱弁を振るうと、クラスメートが明らかに引いている。「やばいことを言ってしまった」と気付いた。

 家に帰り「うちの家はおかしい。他の子の家と違う」と訴えれば、「サタンの考えだ」と間髪おかずに平手打ちが飛んだ。

 毎日朝晩、教団創設者の写真に向かって土下座し、お祈りさせられる。自分に何かを決める権利はなく、親に言われるがまま、信仰を強要される「宗教虐待」の当事者だった。

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 島根県内在住の30代女性は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)信者の両親の元で育った。信仰を強要され、さまざまな虐待を受けた。「2世」の壮絶な過去に迫った。(白築昂)

    =(2)に続く=