訪問介護サービスの介護報酬基本料の引き下げを受け、国会前で抗議するヘルパーら=2日
訪問介護サービスの介護報酬基本料の引き下げを受け、国会前で抗議するヘルパーら=2日

 2024年度から3年間の介護報酬の改定内容が決まった。介護現場の深刻な人手不足に対応するため、職員の賃金底上げを重点課題としたのが特徴だ。サービスの対価として介護事業者に支払う報酬を増やし、24年度に2・5%、25年度に2・0%の職員のベースアップ(ベア)を目指す。

 介護職員の平均賃金は全産業平均より月約7万円低い。22年には介護の仕事を辞める人が働き始める人を上回る「離職超過」に陥り、多くの事業者が人材確保に頭を痛める。改定では介護報酬全体で1・59%増額するうち、0・98%分を賃上げに充てる。職員の処遇改善を優先するのは妥当な措置だろう。

 もっとも、今年の春闘では連合が5%以上の賃上げを目標に掲げており、介護職員のベアが想定通りに実現したとしても、他産業との格差が広がる懸念はある。人材流出に歯止めをかける効果を上げられたかどうか、現場の実態を調べて検証することが欠かせない。

 事業者への報酬を増やすと、利用者の自己負担や保険料も上がることになる。しかし職員の離職が続くと、介護サービスの提供体制そのものの維持が危うくなりかねない。政府は国民に対し、処遇改善の重要性を丁寧に説明する必要がある。

 今回の改定で気がかりなのは、特別養護老人ホームなど施設系サービスの基本報酬が軒並み引き上げられるのと対照的に、訪問介護サービスでは引き下げられる点だ。

 訪問介護は、自宅で暮らす要介護の高齢者の日常生活を支える基本的なサービスで、年100万人以上が利用する。家族にとっても、訪問介護を使うことで仕事との両立が実現できているケースは少なくない。

 訪問介護の担い手となるホームヘルパーは人手不足が続き、有効求人倍率は約15倍に上る。平均年齢は50代半ばと高齢化。ヘルパー不足による倒産や事業の休廃止も増えている。基本報酬を引き下げると、こうした状況が加速しないか。

 厚生労働省は報酬減額の理由として、事業者の経営実態を調査したところ、訪問介護分野全体の収益が大幅な黒字だったことを挙げている。処遇改善に取り組む事業者に報酬を上乗せする加算を拡充するので、加算を取得すれば経営にダメージはないと説明する。

 だが介護現場では、この調査は実情を反映していない、との指摘がある。集合住宅に併設され、その入居者を中心に訪問する事業者の場合、同じ建物内で多数の利用者にサービスを提供して効率よく収益を上げている。訪問介護の収益率は、こうした事業者の存在により高めの結果が出ている可能性があるという。

 一方で中山間地を含む郡部など、広い範囲に点在する利用者宅をカバーするような、地域に密着した小規模事業者の経営状態は厳しい。ひとくくりに基本報酬を引き下げるのは乱暴ではないか。同一建物を中心にサービスを展開する事業者に対しては、報酬を減額算定する仕組みを強化して対応すべきだ。

 高齢化は急速に進み、重度の要介護高齢者の増加が見込まれている。在宅介護や在宅医療の役割がより重要になるが、訪問介護による日常生活支援はその基盤でもある。基本報酬引き下げでサービス提供が手薄になり、「介護難民」が増えることにならないか心配だ。