「戦後最悪」といわれた日韓関係は昨年3月、岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が元徴用工問題を巡る解決策で合意したことで劇的に改善した。とはいえ、竹島(島根県隠岐の島町、韓国名・独島(トクト))を巡る領土問題になると、韓国側の雪解けムードは途端にしぼんでしまう。
それは年明け早々、如実に表れた。元日の能登半島地震で日本の気象庁が竹島に津波注意報を発令したのを受け、韓国国防省が「強力に抗議し、是正措置を求める」と声明を発表した。抗議しないと、日本の領土であることを印象付けるからだ。
国防省は他にも対応に追われている。韓国の申源〓(サンズイに是)(シンウォンシク)国防相が国会議員だった昨年3月、竹島を巡って「韓日間で領有権紛争があるのは事実」と交流サイト(SNS)に投稿したとして昨年末に問題視され、国防省は1月3日、「日本が領土紛争を企てているとの意味だった」と釈明した。投稿は、島に警備隊員を常駐させ「領土問題は存在しない」と主張する韓国政府の立場に反する内容だったからだ。
竹島を巡っては昨年末にも、韓国軍の教材に領土紛争地域であるかのように記述した箇所があるとして問題になり、国防省が全量回収を表明していた。過剰に映る対応の背景には、反日世論への対処もあるのだろう。
こうした状況下できょう、島根県の「竹島の日」を迎えた。例年以上に韓国側の抗議活動は強まりそうだが、領土権確立に向け、臆する必要はない。
本来、領土問題を担当するのは島根県ではなく、国である。戦後最悪の関係を脱した両国トップの指導力に期待したいが、ともに厳しい立場だ。
内閣支持率が低迷する岸田首相は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて自派閥の解散を率先したが、不人気は相変わらず。現職閣僚と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点も再び問題化し、青息吐息の状態で、とても領土問題に本腰を入れる雰囲気はない。
尹大統領に対しても韓国内では、元徴用工問題の解決策を念頭に「韓国が一方的に譲歩しただけではないか」という不満が根強く残っており、4月の総選挙で与党が敗れれば、レームダック(死に体)化が進むのではという懸念も広がっている。
手詰まり感が改善しない中、われわれが今できることは民間レベルでの交流促進しかない。交流を深めて互いの考えを理解することが、将来的な問題解消への土台固めになるはずだ。
幸い日韓関係の悪化や新型コロナウイルス禍を乗り越え、米子空港を発着するソウル便が昨年10月下旬に運航を再開。搭乗率は4カ月連続で80%以上の高い水準を維持している。
また、境港市と韓国東部の東海(トンヘ)市を結ぶ定期貨客船の運航も再開する計画。韓国の船会社が5月の試験運航を経て、7月の正式運航を目指すという。
日本によって植民地支配された過去を持つ韓国は、歴史問題に敏感だ。それが日韓関係に刺さる「とげ」となり、繰り返し政治問題化してきた。しかし、相手への攻撃と不信からは何も生まれてこない。
長期的な取り組みになるだろうが、竹島を抱える山陰から民間交流を積極的に進め、互いの理解を深めることが、刺さったとげを取り除く一手になる。