東京株式市場の日経平均株価(225種)が、バブル経済期につけた史上最高値を上回った。好調な企業業績などが要因という。だが、株高の象徴する好景気を実感している国民がどれだけいるだろうか。生活感覚とかけ離れた株高は、企業優先の政策のゆがみを映していよう。その点を見過ごしてはならない。
これまでの終値最高値は1989年末の3万8915円で、その後のバブル崩壊を機に株価は長らく低迷。日銀による2013年の大規模金融緩和などを弾みに上昇基調となり、22日に約34年ぶりに記録を更新した。
今回の株高は複数の要因を指摘できる。まず新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化だ。昨年来、旅行や外食への支出が活発化。関連企業の業績が回復し、好感した買いが入った。今後の焦点は、コロナ自粛からの反動に当たる今の需要の持続性にあろう。
次に円安だ。インフレ退治へ米欧が金融を引き締める一方で、日銀は緩和を続け、金利差拡大から足元では1ドル=150円近辺へ下落。自動車など輸出企業の利益が膨らみ、株価を押し上げた。ただ、為替差益は一時的な面があり、企業の「稼ぐ力」の向上と必ずしも言えない点に注意したい。
加えて円安でドル換算した株価が割安になり、海外投資家が日本株に手を伸ばしやすくなった点がある。東京証券取引所の働きかけにより企業が自社株買いや配当の株主還元を拡充した動きと相乗効果を生み、海外勢の積極的な買いを呼んだ。
株売買の約6割は海外投資家が占め、保有は3割に達する。影響力は大きく、利益確保へ日本株を手放した際などには値下がりが予想される。海外投資家の動向に左右されやすい市場構造を忘れないようにすべきだ。
ほかの株高要因としては、少額投資非課税制度(NISA)が刷新され個人投資家の資金が市場へ流入した点や、米国経済の堅調、半導体需要への期待が指摘される。しかし肝心なのは、経済活動の実体を伴っているかどうかであろう。
景気の柱である個人消費を見れば不振は鮮明だ。実質国内総生産(GDP)の消費は、昨年10~12月期まで3四半期連続で前期比減。2%目標を超える物価高でも日銀が緩和をやめない影響などで、インフレに賃上げの追い付かない状態が続くのだから当然だ。GDP全体では景気後退に等しい2期連続減に沈んだ。この景気実体とちぐはぐな株高は、手じまいできない大規模緩和と円安をはじめ、多くの原因を政策のゆがみと企業の姿勢に求められよう。
企業利益や株主還元が拡大してきた背景には法人税減税などの優遇策がある一方で、家計には消費税や社会保障の負担増、そして物価高騰と重荷ばかりがのしかかる。
海外投資家などを恐れて企業が株主還元に前のめりな半面、賃上げには長年後ろ向きだった点も忘れてはならない。今春闘では従来以上の賃上げとして還元を求めたい。
日銀は緩和策として大量の株を事実上買ってきたため、日本の株価は「げた」をはいているのが実態だ。市場の正常化へ動く機会は、株高の今を置いてほかにあるまい。
株価高騰に反比例するように岸田政権の支持率は低迷する。政治資金問題だけでなく、国民生活の痛みへの無頓着が根底にあると知るべきだ。