衆院政倫審出席の意向について、記者団の取材に応じる岸田文雄首相=28日、首相官邸
衆院政倫審出席の意向について、記者団の取材に応じる岸田文雄首相=28日、首相官邸

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、岸田文雄首相が衆院政治倫理審査会に自ら出席する意向を表明した。報道陣を含め審査を全面公開し、「説明責任を果たしたい」と述べた。

 審査の対象になった安倍派幹部らの反発もあって、公開審査を認めるかどうかで自民党の対応が二転三転。その結果、政倫審が開催できなければ国民の不信感が増幅すると危惧したためであろう。

 首相の方針を受けて最終的に安倍派幹部らを含めて29日に始まる政倫審は全面公開にはなった。だが、この間の経緯を見ると、党総裁である首相の指導力不足は否めない。

 なおかつ現職首相として初めてとなる政倫審出席で、国民の疑問に応える説明ができず範を示すことができなければ、首相自身の進退が問われるとの覚悟を持ってもらいたい。

 2018年からの5年間で、政治資金収支報告書に記載してなかった総額は約5億8千万円に上る。その政治的、道義的責任を明らかにするため、与野党は先週、28日から2日間、衆院政倫審を開催する日程で大筋合意していた。

 審査の対象になったのは、安倍派の松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長、西村康稔前経済産業相、塩谷立元文部科学相と、二階派の武田良太元総務相の計5人。野党は還流資金を収支報告書に記載していなかった衆院議員51人の出席を要求。これに対し、自民党は政倫審規程に基づく本人の審査申し立てがあったとして、派閥で実務を担う事務総長経験者に限って受け入れた。

 国民が知りたいのは、巨額の裏金づくりが誰の指示でいつから始まったのかと、その目的や具体的使途であろう。

 政倫審は原則非公開だが、対象議員が了解すれば公開される。自民党が政治への信頼回復のため、実態解明に本気で取り組んでいる姿勢を見せたいのであれば、絞り込んだ対象者への審査を全面公開するのが当然だ。

 自民党側は当初、全面非公開を主張したが、27日、一部議員については報道陣の取材を容認しているとしたため、その議員を対象に先行審査する案が浮上した。ところがその日のうちに、出席拒否に転じて、与野党協議は不調に終わり、28日の開催は見送られた。

 公開の下での出席を拒否するなら、理由を明らかにすべきだが、野党によると、提示はなかったという。これでは政倫審開催自体で幕引きを図っていると批判されても仕方あるまい。

 能登半島地震対策費などを盛り込んだ24年度予算案を審議しているさなかである。一日遅れに過ぎないとはいえ、首相が自民党総裁として政倫審公開に向け明確な指示を出していれば、時間を浪費せずに済んでいたはずだ。

 にもかかわらず首相は「国会で判断されるべきものだ」などと繰り返してきた。行政府の長としての立場もあるが、自民党を率いる首相が信任に値するか指摘せざるを得ない。

 首相が責任を自覚しているなら、政倫審で裏金事件にまつわる疑問に誠心誠意答えるよう安倍派幹部らに厳しく申し伝える必要がある。同時に大臣規範に反すると疑惑の目が向けられている首相自身の政治資金パーティーや就任祝賀会についても説得力ある説明が求められよう。