宝塚大劇場=3月28日、兵庫県宝塚市
宝塚大劇場=3月28日、兵庫県宝塚市

 宝塚歌劇団の劇団員だった女性が昨年9月に急死した問題で、歌劇団を傘下に持つ阪急阪神ホールディングス(HD)は上級生らによるパワーハラスメントを認め、遺族に謝罪した。合意書が交わされ、女性の額にヘアアイロンでやけどを負わせたり、人格を否定するような言葉を浴びせたりするなど計14件のパワハラ行為が確認された。

 女性は自殺したとみられ、遺族側はパワハラを指摘し、歌劇団に謝罪と補償を求めた。だが歌劇団側は昨年11月、外部弁護士の報告書を公表し「パワハラは確認できなかった」と主張。理事長が「(あったと言うなら)証拠を見せていただきたい」と発言するなど、かたくなな姿勢を崩さず、決着まで半年近くを要した。

 歌劇団側の対応は遅きに失したと言わざるを得ない。パワハラを認めれば、厳しい上下関係と指導という歌劇団の「伝統」を批判され、イメージが低下すると考えたのだろう。阪急阪神HDの記者会見では、執行役員がパワハラ行為の一部について「悪意があったとまでは言えない」と述べ、遺族側と見解が一致していないことを強調した。

 再発防止策が示されたとはいえ、歌劇団内のしきたりや行き過ぎた指導方法を巡り、どこまで反省を深めているのか、見えづらい。悲劇を繰り返さないため、組織風土を変えられるかが問われている。それなしに再出発に理解は得られない。

 宝塚音楽学校の試験に合格し歌唱や演技、バレエなどの基礎を積み、歌劇団に入団する。花、月、雪、星、宙(そら)の5組に分かれて華やかな舞台に立ち、トップスターを目指すが、音楽学校時代から上級生、下級生の厳格な序列に組み込まれる。

 亡くなった女性は当時25歳。入団7年目で宙組に所属し、下級生のまとめ役として演技指導や衣装準備に追われ、公演に備え自らの稽古もこなしていた。そんな中、上級生から「下級生の失敗は全て、あんたのせい」「うそつき野郎」と何度も罵声を浴びせられた。「ずっと怒られているから、なんで怒られているか分からない」などと、家族に訴えたこともあった。しかし当初、歌劇団側は「社会通念に照らして許容の範囲内」として片付けようとした。

 特に、上級生が女性の額にヘアアイロンを押し付け、やけどをさせたとされる一件で「故意と判断できなかった」としたことに遺族側は強く反発。最終的に「気遣いや謝罪をしなかった」と、これもパワハラに含め「全ての責任は劇団にある」と認めた。ただ全面謝罪が真摯(しんし)な反省に基づいたものか、疑問は残る。

 そもそもパワハラを否定した報告書は、歌劇団を運営する阪急電鉄のグループ企業役員がいる弁護士事務所に任されていた。調査の公正さが疑われても仕方ない。外部有識者から成る第三者委員会も設置していない。

 遺族側への譲歩に方向転換した背景には一連の対応に批判が高まり、4月に予定していた宝塚歌劇110周年記念式典の中止や宙組の公演見合わせなど事業への影響が深刻化し、追い詰められたという事情が浮かぶ。

 歌劇団側はまだ言いたいことがあるかもしれないが、理不尽な指導・叱責(しっせき)を排し、劇団員の人権を尊重する組織改革は待ったなしだ。阪急阪神HD、阪急電鉄が劇団任せにせず、前面に立ち着実に進める必要がある。