このままでは民主主義が機能しなくなる。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件は、国のかじ取り役である国会議員の「政治とカネ」に対するモラルの低さを物語り、政治と主権者たる国民の間に横たわる溝を一段と大きくした。
自民による真相解明は不十分だ。国民の不信は高まり、自民支持率は2012年の政権復帰以来、最も低い水準に陥った。対する野党も、政権交代の受け皿として信頼を集めているとは言い難い。民意が行き場を失いつつある。
「政治とカネ」は積年の課題だ。振り返れば、政治改革を争点にした1993年の衆院選で自民が初めて政権を失い、細川連立政権下で94年1月、政治改革関連4法が成立。政治資金規正法を改正してカネの流れの透明化を図った。衆院の選挙制度も従来の中選挙区制から、よりカネがかからないとされる小選挙区制に改めた。にもかかわらず、政治とカネに対するモラルの時計の針は30年前に逆戻りした。
政治とカネを最大の争点にした衆院島根1区補選が始まる。政治資金の透明性をいかに高めるか。規正法違反時の罰則強化や、独立した第三者調査機関の設置をどう進めるか。立候補者や関わる政党は責任を持って具体策を語り、改革の内容を競い合ってほしい。その先に、政治への信頼回復があるはずだ。
これ以上、政治とカネの問題で政策が足踏みするのは許容できない。足元を見渡すと、人口減少に起因する社会保障制度への不安、人手不足など待ったなしの課題が山積している。将来に希望が抱ける処方箋を示して結果を出す、政治の力が今こそ必要とされている。人口減少で疲弊する島根はなおさらだ。
「国民は自らの程度に応じた政治しかもちえない」。実業家・松下幸之助の言葉だ。補選は投票率が下がる傾向があるが、意志を示さないと政治も私たちの暮らしも変わらない。候補者は政策を語り、有権者は真摯(しんし)に聴き、あるべき姿を考える。良識ある議員を選び、国会に送り出す。双方が民主主義の原点を守り、信頼できる政治を取り戻したい。