4月に入り、春の陽気に包まれた山陰地方の市街地で、澄んだ鳥のさえずりが響くようになった。山陰地方の留鳥のほか、越冬地から繁殖地に移動する際に立ち寄った渡り鳥が見られるのが今の時期だ。米子市の市街地近くでバードウオッチングした。
「ツツピーコー」。街中に響く複雑で美しい鳴き声の持ち主は、野鳥ファンの間でも美声と名高いイソヒヨドリだ。3~6月の繁殖期になると、灰青色の背中とだいだい色の腹のコントラストが鮮やかなオスが、灰色で少し地味な印象のメスの気を引こうと建物の上で高らかにさえずる。

繁殖期や渡りでにぎやかな春の鳥は、遠目で観察するだけでもいいが、少し装備すれば楽しみがぐっと広がる。重要なのは赤や黄、白を避けた地味な色の動きやすい服装や靴▽両手が空くかばん▽双眼鏡▽ポケットサイズの図鑑ーの四つ。準備を整えればあとは単純だ。耳を澄ませて鳴き声を聞き、聞こえた方向に緩やかな動作で双眼鏡を向け、動く鳥を探す。
米子市西町の湊山公園で3月末、実際にバードウオッチングした。この日の公園は、翌日からの野外イベントの準備や、春休みで遊びに来た子どもたちでにぎわっていたが、人の声に混じって何種類かの鳥の気配を感じた。
「トトトト…」とリズムよく木をたたく音でまず見つけたのが、キツツキの一種のコゲラだ。キツツキというと珍しいように感じるが、公園や街路樹で年間通じて普通に見られる。国内最少のキツツキで、スズメより少し大きい程度のかわいらしい鳥だ。

近くのヤナギに目をやると、メジロの群れが花をついばみながら「チーチー」と高い声で鳴いていた。雑食性で、ウメやサクラが咲くこの時期は甘い蜜を求めて花に集まり、その写真を撮ろうと愛好家が集まる構図ができあがる。この日も例外でなく、記者のほかに市内の男性1人がカメラを構えた。

鳥がいるのは樹上だけではない。気配を感じて茂みに目をやると、落ち葉を裏返して餌を探す高さ15センチほどの鳥がいた。冬鳥のシロハラだ。人通りの多い公園にいるためか、少し近づいても逃げなかったが、素早く歩き回るため撮影に苦労した。立ち止まった瞬間を逃さずパシャリ。

そろそろ帰ろうとしたところで、ジョウビタキが近くに飛んできてくれた。オスは黒の翼とだいだい色の腹のコントラストが鮮やかだ。ジョウビタキも冬鳥。10月ごろに日本にやってきて、春まで過ごす。半年間の別れを惜しむ気持ちで、枝の上で尻を振るしぐさを飛び去るまで観察した。

2時間ほどの散策で12種の野鳥を観察できた。シジュウカラ、シロハラ、ジョウビタキ、イソヒヨドリ、スズメ、カワラヒワ、コブハクチョウ、メジロ、ツグミ、コゲラ、カワラバト、ハシボソカラス…。
双眼鏡や図鑑など入門の際には1万円程度の出費が必要になるが、一度購入すれば基本的に減らない「資産」だ。また、米子水鳥公園や宍道湖グリーンパークなどの施設に行けば、機材や図鑑がなくても楽しめるため「財布に優しい趣味」と言える。興味を持って観察を始めると、家の近くでも意外なほど多くの種類の鳥を見つけられる。新たな趣味を探している人にはぜひ挑戦してみてほしい。
(米子総局報道部・中村和磨)