「授業で学んだことを忘れないようにするためです」。4月中旬、福井市下荒井町にある清明小学校(児童数419人)の5年生の授業で、自主学習はなぜ大切なのかという担任の問いに、児童が即座に答えた。自主学習は児童が自ら学ぶ内容を決め、主に家庭で取り組む。
同校は3年生から自主学習ノートに取り組む。計算問題や日記、学年が上がるとテストで間違えた問題を解く子もいる。
提出は週1回1ページが目安で、やる気を引き出すため、年2、3回、互いの自主学習ノートを見て投票する「自学コンクール」を展開。投票が多かった児童は「賞」のシールをもらい、ノートのコピーが手洗い場に掲示される。
5年生の川畑咲愛(さくら)さん(10)は、国語の問題をクイズ形式でノートにまとめ、紙をめくると答えが見えるよう工夫した。下級生にも褒められ「自分の頭も良くなるし、お手本にされるとうれしい」と笑みをこぼす。子どもの学ぶ意欲が芽生え、家庭学習の定着につながっている。
福井県は、文部科学省の全国学力テストで毎年上位に入る教育県だ。
2023年度の全国学力テストの正答率(公立)が小学校の国語は71%(島根65%)、算数66%(同59%)でいずれも全国3位。中学校の国語は73%(同70%)、数学は55%(同48%)でいずれも全国2位を誇る。
かつて福井県は「日本一宿題の量が多い」と言われ、学校主導の家庭学習が教育県の屋台骨を支えてきた。主体的な学びを重視する現在の学習指導要領が20年度に始まったのを受け、同県の教育方針は「ていねいな教育 きたえる教育」から「引き出す教育 楽しむ教育」に変わった。
同県の宿題は無理なくできる量を課し、以前より減少傾向だ。授業以外の平日一日の勉強時間は、小学校で1時間以上51・7%(島根53・9%)。中学校は1時間以上59・7%(同52・2%)で島根と大差ない。それでも学テで上位なのは、学ぶ意欲を引き出す授業づくりを目指す、現場の熱量がある。
福井県あわら市市姫1丁目の金津中学校(生徒数380人)。数学の真鍋曜子教諭(27)は1年生の授業で「正の数・負の数」の復習でトランプを使ったゲームを行った。
赤の数字を正の数、黒の数字を負の数として、引いた4枚の数字の和が多い人が勝つルール。楽しみながら生徒同士で教え合い、理解を深めるのが狙いだ。
同校は毎週、各教科の教員が集まり、授業改善に向けて情報を共有する。ゲームは、同僚の取り組みを参考に取り入れた。真鍋教諭は「教科書『を』教えるのではなく、教科書『で』教えるための工夫がよく分かる」と教員の連携の強さに恩恵を感じる。
県内の中学校は、規模を問わず教科担任がそれぞれ全学年を受け持つ。教員が同学年の別のクラスを教える教員と情報交換し、授業改善につなげられるメリットがある。島根県では教科担任が学年別に配置されることが多い。
効果は数字にも表れる。23年度の学テで、教科への子どもの興味・関心に関し、全国平均を5・0とした場合の福井県の数値は、小学校の国語が5・5(島根4・7)、算数は5・5(同4・5)、中学校は国語5・4(同4・9)、数学5・3(同5・2)と各教科で全国上位6位以内に入った。
子どもに家庭学習の意識を根付かせ、授業で学ぶ楽しさを伝える。双方を突き詰め、両輪を回すことが学力向上の土台となる。
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学びの変革ー人口減少時代の教育ー第4部は島根県の学力向上策を考える。
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