東京都内で開かれたトヨタ自動車の決算発表記者会見=8日
東京都内で開かれたトヨタ自動車の決算発表記者会見=8日

 大手企業の決算発表がピークを迎えている。トヨタ自動車の2024年3月期連結決算は本業のもうけを示す営業利益が5兆3529億円と過去最高を更新、国内製造業では空前の水準に達した。

 自動車、ハイテク、機械などの業績は軒並み好調だ。追い風になっている円安の利益が輸出企業に偏在しているのは疑う余地がない。膨らんだ利益を下請け企業にしっかり分配することこそ、時代の要請ではないか。

 投資家の顔色をうかがい、配当や自社株買いばかりを優先する経営を改め、従業員の給与や中小企業の利益に反映させなければ、豊かさの実感はいつまでも広がらない。取引先や地域社会も視野に入れ、公益に寄与する姿勢を経営者に求めたい。

 トヨタの場合、営業利益は円安により7千億円近く押し上げられた。23年度の平均為替レートは前年度より10円ほど円安に振れたという。安全性能の向上や先進技術の導入に伴い車両価格も引き上げた。値上げによる増益効果は1兆円に上った。

 国内でも値上げを消費者が受け入れるようになったことは、多くの企業にプラスの効果をもたらした。円安による利益も輸出企業に共通している。こうした利益は従業員や取引先にもっと還元するべきだろう。

 目がくらむような巨額の利益は、日常的な原価低減に支えられている。自動車メーカーは部品・素材メーカーに対し、毎年のように原価の引き下げを求めてきた。

 しかし、これが下請け企業の賃上げを抑制する要因になってきたとも指摘されている。サプライチェーン(供給網)の頂点にいる大企業は、取引先の原価の中身を分析し、労務費の引き上げを積極的に容認するべきだ。中小企業の賃上げは、日本経済の活力を再生する鍵になる。

 大企業の間では変化も生まれてきている。例えば住友電気工業はユーザー、取引先、株主、地域社会、従業員の5者に利益を還元する方針を掲げ、「五方(ごほう)よし」と名付けた。具体的な数値目標を示しており、「有言実行」を目指してほしい。

 株主や投資家に配当の目安を示す企業も増えてきた。株主の安心感につながると同時に、投資家への歯止めなき利益配分を防ぐ効果もあるだろう。

 製造業では品質や安全検査を巡る不正が続いている。多くの場合、利益偏重の姿勢が背景になっている。生産現場を守り、日本がものづくりの先頭を走り続けるための改革を探らねばならない。

 投資家への利益配分を最大化することを目的に、「物言う株主」として経営陣に圧力をかけるケースがある。しかし、企業は株主だけのものではない。地域のインフラや従業員の勤勉さがなければ、どんな事業も成り立たない。理不尽な要求を拒む勇気も必要だ。

 息の長い成長を実現するには女性の登用、男性の育休取得、社会貢献、温暖化対策などに率先して取り組むべきであり、投資家ばかりに目を向けるのは間違っている。

 渋沢栄一が「論語と算盤(そろばん)」で収益優先の経営を戒めたのは1916(大正5)年のこと。「利益と倫理の調和」は100年以上たってなお、大きな宿題であり続けている。80年代から続いた新自由主義は深刻な経済格差をもたらした。幅広い層が豊かさを享受するため、経営者も自らの役割を果たしてほしい。