政治資金規正法改正の与党案に大筋合意し、撮影に応じる自民党の茂木敏充幹事長(中央右)と公明党の石井啓一幹事長(同左)ら=9日、国会
政治資金規正法改正の与党案に大筋合意し、撮影に応じる自民党の茂木敏充幹事長(中央右)と公明党の石井啓一幹事長(同左)ら=9日、国会

 自民党が既得権益にしがみついているなら、国民の不信感は払拭できない。党総裁である岸田文雄首相は進退を懸ける決意で、抜本的な政治改革を断行すべきだ。

 自民派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、自民、公明両党は政治資金規正法を改正する与党案について大筋合意した。焦点になったのは、パーティーなどで得る政治資金の透明化策だったが、具体的な公開基準や使途の明示には踏み込まなかった。

 最大の要因は「政治活動の自由」「プライバシー保護」を理由にした自民の消極姿勢と、曖昧な内容で妥協した公明の対応にある。

 公明はパーティー収入の透明化を図るため、パーティー券購入者の公開基準額を現行の「20万円超」から、寄付と同じ「5万円超」への引き下げを主張。自民は公開基準の拡大を容認したものの、「10万円超」にとどめるよう求めた。

 根拠不明の提案を自民が行った事情は想像が付く。公開の範囲が広がりすぎると、企業などによるパーティー券の買い渋りを招き、これまでのように資金集めができなくなると懸念したからだ。結局、与党案は「20万円超から引き下げ、改正案に盛り込む」とだけ記し、新たな基準額の設定は改正案作成まで先送りした。

 岸田首相が誓った裏金事件の再発防止には、まずもって原資となりうる資金の出所を明確にするなり、制約を課すなりする必要があるはずだ。立憲民主党はパーティー自体の全面禁止を掲げ、ほかの野党は企業・団体によるパーティー券の購入禁止などを提起している。

 自民には、野党の今後の出方を見極めた上で基準額などを判断する思惑があるとみられる。だが、裏金事件を真摯(しんし)に反省し、全敗した衆院3補欠選挙で表れた民意を尊重するのであれば、身を切る改革に率先して乗り出すべきだろう。

 政党から政治家個人に渡され、使途公開の義務がない政策活動費の見直しも同様だ。野党は廃止を打ち出しているが、与党案は、政治家が使途を報告し、党が政治資金収支報告書に記載するとした。自民は、支出を7項目程度に分類して報告させることを想定している。

 自民が党幹部に年間10億円前後を支出している中、そのような大ざっぱな仕分けでは、資金の透明化には値すまい。政策活動費を温存しながら、使途の明細を明らかにしないのであれば、国民が納得する理由を説明しなければならない。

 収支報告書の作成では罰則付きで国会議員の監督責任を強化し、脱法的と指摘された政治団体間の資金移動では移動先の団体の公開基準を厳格化した。ただ、議員らに順法意識がなければ実効性を欠く。裏金事件が教訓であり、「抜け道」を徹底的にふさぐ必要がある。

 積み残された課題について、自民が前向きに取り組むかどうかは、公明の態度にもかかっている。連立政権の維持を優先するため、安易に主張を降ろしたり曲げたりすれば、公明からも民意は離れていくと心せねばなるまい。

 自民の「解体的出直しを図る」と言明していた岸田首相の責任が最も重いことは言うまでもない。今国会で成立を期すという規正法改正の内容は、次期衆院選で自公政権を継続させるかどうかの審判材料となろう。