「書くことがない~」。同僚がこのコラムのネタ探しに行き詰まると、妙なリズムを付けて歌い始める。迫り来る締め切りとの戦い。ただ歌っているうちは大丈夫。本当に切羽詰まったら歌う余裕もない▼そんな苦しみは漫画の世界も同じらしい。人気アニメ『名探偵コナン』で有名な鳥取県北栄町出身の漫画家・青山剛昌さん(60)も、作品で使うトリックのアイデア探しに四苦八苦しているようだ▼インターネットで素材を見つけると、すぐに実験。山登りの様子を描くため実際に山へ出かける。「(作品を)信じている子どもたちを裏切るわけにはいかないから」。先日、長期密着したドキュメンタリー番組で紹介していた▼野球アニメ『タッチ』などで知られる先輩漫画家・あだち充さん(73)は、親交が深い青山さんについて「天才中学生がそのままの気持ちで漫画を描いているようだ」と評した。中学時代から既に好きな漫画を描き始めていた青山さん。そんな姿を両親は「どうやって人に喜んでもらえるかばかりを考えていた」と振り返った。「好きこそものの上手なれ」。プロデビューから37年たった今も、その向上心は衰えていないのだろう▼番組の最後に「プロフェッショナルとは」と問われた青山さんは「どんな窮地に陥ってもその状況を面白がれる人」と答えた。たとえ「書くことがない~」状況でも、それを楽しむ強い精神力が欲しい。(健)