衆院東京15区補欠選挙の告示日、立候補した乙武洋匡氏(左上)の演説会場周辺で声を上げる政治団体「つばさの党」の黒川敦彦代表(右下)=4月16日、東京都江東区
衆院東京15区補欠選挙の告示日、立候補した乙武洋匡氏(左上)の演説会場周辺で声を上げる政治団体「つばさの党」の黒川敦彦代表(右下)=4月16日、東京都江東区

 衆院東京15区補選で他陣営の選挙活動を妨害したとして、警視庁が政治団体「つばさの党」事務所や代表の自宅などを公選法違反(自由妨害)容疑で家宅捜索した。候補者の陣営による妨害行為は想定外の事態だった。衝撃は大きく、与野党の一部には規制強化や厳罰化の法改正を求める声もあるが、安易な改正は選挙活動の萎縮や聴衆の権利制限など深刻な副作用を招きかねない。

 まずは現行法で対処すべきだ。それを実行したのが今回の家宅捜索と言える。選挙期間中は警告や現場での注意にとどめ、買収事件などと同様に、選挙終了後に強制捜査に着手した対応は、もどかしくても妥当だった。

 いずれ検察が関係者の刑事処分を決め、起訴されれば厳密な立証を求められる刑事裁判が始まる。法定刑は「4年以下の懲役・禁錮か、100万円以下の罰金」と重い。有罪なら公民権停止の制裁も受ける。これらの効果などを冷静に見極めなければならない。

 つばさの党側の行為は、強い非難に値すると言わざるを得ない。告示日にはJR亀戸駅前で街頭演説に立った無所属候補の選挙カーに車を横付け。約50分間、大音量のマイクで叫んだり、車のクラクションを鳴らしたりした。無所属候補の演説はかき消された。代表が公衆電話ボックスによじ登って、拡声器で大声を上げる異様な光景もあった。

 最高裁判例では、自由妨害罪に当たる演説などの妨害行為を「聴衆が聴き取ることを不可能または困難ならしめる所為」と定義している。つばさの党側は「妨害の意図はない」などと主張するが、一般市民の感覚で見て妨害であることは明らかだ。

 警視庁は直後に、自由妨害の疑いがあるとして、代表や候補者らに警告を出した。しかし、同様の行為は他の政党公認候補や諸派候補らにも拡大。各陣営は自衛のため街頭演説の事前告知をやめるなどした。

 有権者が各候補の政策を聴く権利を奪ったものであり、言語道断だ。それでも、規制強化に走ることには慎重にならざるを得ない。理由の一つは、規制に抵触するのを恐れて各候補者の選挙活動が萎縮する恐れがあることだ。正当な論争すら失われることになれば、民主主義の基盤を損ないかねない。

 また、国家が選挙活動に過度に介入するようにならないかも心配だ。かつて官憲が「弁士中止」と選挙演説などを強制的に中止させた歴史を有するわが国としては、神経質にならざるを得ない。さらに、聴衆のやじなどにまで規制が及び、憲法が保障する表現の自由が侵害される懸念もある。有権者のやじは、つばさの党の行為とはまったくの別物だ。

 札幌市で5年前、参院選街頭演説の安倍晋三首相(当時)にやじを飛ばした市民が、警察に排除されたことの是非が争われている訴訟では、一、二審判決ともに一部排除の違法性を認めている。

 つばさの党は過激な行為を動画撮影し、投稿サイト「ユーチューブ」で配信した。チャンネル登録者数は25万人に上る。党側は否定しているが、動画視聴による収益目的との指摘は根強い。

 選挙活動へのインターネット活用の在り方については、選挙妨害の規制強化などとは別に議論が必要だろう。