柔らかな風に潮の香りが混じる。鳥のさえずりが降ってくる。4月半ば、福島県大熊町の小入野地区。渡部まゆみ(67)はかつて自宅のあった付近に立ち、ため息をついた。「ここが玄関、そこが畑で、あのあたりが竹やぶだった。タケノコがたくさん採れたんです」

 東日本大震災で爆発した東京電力福島第1原発から3キロ圏内で、今は中間貯蔵施設とされる区域。福島県内から運び込まれた汚染土や廃棄物を保管する。2045年までに県外で最終処分する予定だが、場所は未定だ。

 

 必死で逃げる

 貯蔵区域は大熊...