皆さんは「トップアスリート」と聞いて、どのような人をイメージしますか。
テレビでよく目にするようなオリンピックや世界選手権などの国際大会で優秀な成績を収めたアスリートでしょうか。それとも、さまざまな分野の専門家から多くのサポートを受けることのできるアスリートでしょうか。いいえ、違います。
もちろん、好成績を収めることは大切です。しかし、真のトップアスリートとは「自分自身のことを誰よりもよく理解し、今不足しているものが何か、必要な情報が何かを常日頃から考えて情報収集を欠かさず、取捨選択して適したものを自ら取り入れられる」アスリートのことです。
四六時中、専門家が傍にいて100%のサポートをしてもらえるアスリートは、実はほんの一握りしかいません。私が勤務するハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センターは、国内外で活躍するアスリートをサポートしていますが、その手法は直接的な支援にとどまりません。自分自身をコントロールできるアスリートを育成するのも長期的な目的です。このため、さまざまな機会を通し、正しい情報の発信に努めています。
皆さんはどれくらい自分のことや、子供や指導に携わっているアスリートのことを理解していますか。新たな情報、知見を取り入れ、共有できていますか。
スポーツ科学は日々進化しています。1年前、1カ月前に新しかった知見が、少し時間が経つと古く、時に誤った情報になり得ます。また、有用とされる最新の知見が、必ずしもすべてのアスリートにプラスの効果が得られるとは限りません。アスリートごとに適したプラン、タイミング、方法で取り入れていく必要があります。
そのためには、広くアンテナを張り、常に学ぶ姿勢が重要です。ジュニアアスリートの皆さん、日ごろ疑問に思っていること、悩んでいることはありませんか。保護者、指導者の皆さん、日常生活や練習、試合での助言、指導方法に迷ったり、困ったりしていませんか。聞きかじった情報を子供さん、アスリートに押し付けていませんか。
次回以降、トレーニング、体のケア、心理、栄養など、多種多様なテーマごとに、私たちの研究に基づく、正しい知見、情報をお届けします。できるだけ分かりやすくお伝えしますが、年齢の低いアスリートの皆さんには、時折難しい内容があるかもしれません。その際は家族や指導者の皆さんがサポートしていただき、ぜひ一緒に知り、学ぶ機会にしてください。連載中、質問を募り、お答えする機会も設ける予定です。
「スポーツ科学」について知り、興味を持ってもらい、その力によって、競技がより楽しく、よりモチベーションが高くなるきっかけになれば、うれしいです。そして、2030年に島根県を主会場に開かれる「島根かみあり国スポ」を目指す皆さんのパフォーマンス向上の手助けになれば幸いです。
(壷倉花・ハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センターコーディネーター)
(次回は25日に掲載予定です)