これも巡り合わせなのだろうか。21年前の5月1日、東京の病院に入院中の故竹下登元首相の政界引退を伝える録音テープが公表された。「リハビリに取り組んできたが、いまだに登院できず、国会議員の責任を果たせない状態が続いている」。引退を決意した理由を、そう語った約4分間の肉声。76歳の時だった▼その日のうちに後継者に決まった元首相の実弟・竹下亘元自民党総務会長の政界引退が昨日、本人は出席せず、文書を代読する形で発表された。衆院島根2区選出の74歳。2019年1月に食道がんを公表し治療したものの、国会復帰後に体調が安定していなかった▼兄の元首相は当選14回、亘氏は7回。兄弟2人を合わせると実に60年以上も島根県政界の「基軸」とされ、その地盤の固さは、かつて「竹下王国」といわれたほど。亘氏は中央政界でも、兄が旗揚げした「経世会」がルーツの党内第3派閥「平成研究会」の会長を務めている▼亘氏が引退を表明したことで、今秋までに行われる衆院選に向けた後継候補選びが動きだす。本人は後継を指名せず党県連会長に一任した。保守分裂選挙になった2年前の島根県知事選の経緯もある。時間が限られた中で、地盤や人脈を引き継ぐ適任者を、どう選ぶか▼その結果によっては、県政界で半世紀以上、抜群の知名度を誇った「竹下」という名前が消え、新しい時代を迎える。(己)