
紫に染まる甲子園球場のアルプススタンドを、グラウンドから見上げ、目を輝かせた。第106回全国高校野球選手権大会で、93年ぶりの8強入りを果たした大社高校。監督・石飛文太(43)は「生徒の力は無限大」と繰り返した。県立高校の教諭、野球部の指導者として、主体性を引き出し、対話を重ねて生徒の可能性を広げる。(interviewer・黒崎真依)
#(中)鬼軍曹から対話重視へ
#(下)夏ベスト8、旋風の手応え
9月9日の昼下がり。夏休みが明けた大社高校(出雲市大社町北荒木)の教室。ポロシャツ姿で教壇に立った石飛は、黒板に大文字で「羅生門」と書くと、急に1年生39人に「芥川龍之介と書いてみろ」と呼びかけた。教室を見渡し「茶川(ちゃがわ)って書いてないか」と尋ねると、生徒は顔をほころばせた。
ほんの3週間前、甲子園に吹いた「大社旋風」の余韻はまだ残る。「TAISHA」のロゴのユニホームに紫色のメガホン。甲子園ですっかりおなじみとなった姿とは違い、チョークを片手に教べんを執る普段の「石飛先生」の姿だ。同校の国語教諭として、現在1、2年生を教えている。

「なぜ」で問いかけ、考えて、答えさせる
もともと国語が好きだった。中学生の頃、五・七・五の限られた文字数で表現する俳句を作るとき、少しの違いで意味が変わり、奥深さがある「言葉」の面白さに引かれた。先生になるなら国語。高校野球の指導者になりたいと進学した姫路獨協大(兵庫県姫路市)で中学、高校の国語の教員免許を取った。
授業では対話を重視する。1年生の「言語文化」の授業では「隣の人と話し合ってみて」と促し、聞こえてきた意見に「いいね」と声をかける。
生徒が理解しているのかどうか、反応を常に意識する。一方的に生徒に教え込むのではなく、会話をさせるスタイルの意図は「自分の意志が伝わるようにするにはどうすればいいのか、自然に考えられるようになる」と生徒の主体的な学びにつなげる。...