前回の自民党総裁選で勝利し、総裁のいすに座る岸田文雄氏。次は誰が座るのか=2021年9月29日、東京・永田町の党本部
前回の自民党総裁選で勝利し、総裁のいすに座る岸田文雄氏。次は誰が座るのか=2021年9月29日、東京・永田町の党本部

 益田市出身の囲碁棋士、岩本薫(1902~99年)は<五もつ持てば 人生は楽し>と色紙に揮毫(きごう)した。持つべきは健康、目的、趣味、友人、五つ目に<お金をもつ少々>とある▼一度は碁を捨て、ブラジルに移住。コーヒー農園を買うために蓄えた大金がだまし取られもして底を突き、2年で帰国した。お金で痛い目に遭い、多くを持つと碌(ろく)なことがないと悟ったのかもしれない。復帰した碁界で長らく活躍し、海外普及のため晩年は私財を投じて世界各所に囲碁センターを建設した人である▼翻って「お金と権力は持てば持つほど欲しくなるもの。多いに越したことはない」とは政界のセンセイ方か。「お金はお金でも本当に欲しいのは使途を公開しなくていい裏金では」と疑いの目が向けられる中、次の首相選びとなる自民党総裁選がきのう告示された▼中国古典の『孫子』は<将とは智・信・仁・勇・厳なり>とリーダーが持つべき五つの資質を説いている。物事の本質を見抜く智力、周りから信頼される力、仁愛や仁徳の心、困難に立ち向かう勇敢さ、そして威厳。約束やルールを守り、抜け道を作らせない厳格さとも言えよう▼総裁選には最終的に9人が立候補し、過去最多の争いとなった。争点は他にもあれど、これまで幾度となく繰り返されてきた「政治とカネ」の問題に白黒つけてくれる候補者が誰かいないものだろうか。期待を持つ、少々。(史)