地方創生担当相時代、島根県海士町を訪ねて隠岐島前高校の生徒たちと懇談する石破茂氏(中央)=2015年4月
地方創生担当相時代、島根県海士町を訪ねて隠岐島前高校の生徒たちと懇談する石破茂氏(中央)=2015年4月

 安倍政権が地方創生を打ち出した翌年の2015年秋。地方自治体は人口減少対策の5カ年計画「総合戦略」を策定した。島根県の最大の課題は中山間地域をどう守るか。策定から1年後、浜田市弥栄町の集落を取材した。

 人口が減り続け、5世帯8人まで減少。周辺では商店など生活機能がなくなっていた。住民は「ここの姿が島根の未来。弱いところを切り捨てるのが、今の政治や社会だ」と語った。当時、島根県政を担当していた。県庁の中だけの取材ではいけない。現場の声を聞き、課題と処方箋を報じる大切さを改めて痛感した。

 自民党の石破茂総裁が鳥取県出身として初めての首相に就いた。「政治とカネ」問題で党が窮地にある中、批判を恐れず、ぶれずに物言う姿勢が評価された。初代の地方創生担当相を務め、取り組みが十分でなかったことを省み、少子化対策や東京一極集中の是正などを進める考えを示した。

 ところが、早々につまずいた。首相就任前に早期の衆院解散・総選挙を表明。総裁選で「熟議重視」の姿勢を示していただけに「変節」との声が相次いでいる。党内基盤が弱く、挙党態勢に向けて党内に配慮すれば世論が離れる。早くも政権運営の難しさを露呈した。

 冷遇された時代、地方の現場を回り続けた石破首相。政権が行き詰まれば地方の危機は増す。過去の総裁選で掲げた「正直、公正」が、今ほど試される時はない。(添)