山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が7、8の両日、浜田、益田両市であり、農村風景を守るための農業を実践するO2Farm(熊本県南阿蘇村)共同代表の大津愛梨(えり)氏(50)が「農業なくして持続可能な社会なし」と題して講演した。要旨は次の通り。
夫の生まれ故郷の南阿蘇で、2003年に夫婦で就農した。無農薬・減農薬の水稲約7ヘクタールと放牧による畜産で経営している。
日本の農村の現状は厳しい。総人口に占める農業従事者の割合(21年)はわずか1・8%で、年齢構成比の49歳以下は10%しかいない。農家はいまや「絶滅危惧種」となっている。
世界の紛争や異常気象による不作など、何かの理由で食料を輸入できなくなったらどうするのか。令和の米騒動もあった。あおりたいわけではないが、食料危機は既に始まっている。
国は大規模化や自動化で「もうかる農業」を推進している。それも重要だが、私たちは家族経営で農村の美しい景色や生物多様性を次の世代に残す「ランドスケープ農業」を提唱している。農村は家族農業を続けることで守られてきた。
世界の農業を見渡しても家族経営が9割以上を占める。小中規模の家族農業によって食料生産が支えられている現状があり、国連もその重要性にスポットを当てている。
農業者は生きていくのに必要な食べ物とエネルギーの両方を生み出すことができる。南阿蘇の農場は使用済みの天ぷら油を再生したバイオ燃料をトラクターやコンバインに使用し、太陽光パネルで自家発電した電気も使用している。
ドイツにはメタン発酵ガスで電力を賄うバイオエネルギー村がある。農家は価格が変動する農作物と異なり、固定価格の売電収入を得ることで農業経営の安定化につなげている。目指すべき姿と言える。(吉田雅史)