石灰の散布など徹底的な対策が講じられた現場=大田市内(島根県提供)
石灰の散布など徹底的な対策が講じられた現場=大田市内(島根県提供)

 高病原性鳥インフルエンザの陽性が確認された大田市の養鶏業者の防疫措置が完了し、今後は国の手当金などを活用した事業再建のステージに移る。約40万羽を処分し、手当金などは数億円規模に上るとみられる一方、卵の出荷再開は来年春以降になる見通しだ。業者は島根県内最大手で、事業の再構築と県内市場の安定化に向け、地元の同業者も卵を供給支援するなど対応を進めている。

 鶏の殺処分や養鶏場の消毒を含めた防疫措置は10日に完了し、再度の消毒などを経て12月1日、鶏や卵の移動制限区域(養鶏場の半径3キロ)が解除される予定だ。県によると、養鶏業者は事業の継続と従業員の雇用維持の方針で、再建に向けた段階へと入る。

 ただ卵の出荷再開までには時間がかかる。県や養鶏業界関係者らによると、現地では今後、飼料などの封じ込め期間(90日)が必要で、鶏を再び飼えるのは早くて来春ごろ。生後間もないヒナを導入した場合、商品となる卵を産むようになるのに、さらに5カ月程度かかるという。

 金銭的な支援策は主に、国の手当金と、国や生産者が有事に備えて出資している「家畜防疫互助金」の二つがある。手当金は、処分した鶏の数などに応じて支給され、今回は数億円規模とみられる。互助金は、1羽当たり最高970円(成鳥の採卵鶏の場合)が支給される仕組みで、こちらも数億円規模の見通しという。

 申請手続きなどを経て、互助金は年内、手当金は半年程度後に支給されるもよう。養鶏業者は事業を停止した状態で、約70人の人件費をはじめ、施設の光熱費などの工面が必要になる。

 養鶏業者は県内に流通する卵の約25%を出荷する最大手。地元の養鶏関係者は「今回の事態を機に(大田市の業者の販路が)県外業者に奪われる恐れがある」と懸念する。

 卵を安定的に供給するため、地元小売業者らの間で今後、県外養鶏業者との取引が増える可能性がある。県外業者の攻勢から守るため、地元養鶏業者の有志が大田市の業者の販路に卵を供給するなどサポートしているものの、全てを賄える規模ではないという。

 県は、当面の回転資金などの融資返済にかかる利子を負担する方針。県畜産課の加地紀之課長は「生活に欠かせない食材の卵が県内で安定供給されるように県として再生産に向けて支援する」と話した。(多賀芳文)