AとBのタイルの明るさをくらべてみましょう。Aが暗く、Bが明るく見えるのではないでしょうか。でも、明るさは同じです(Edward H.Adelsonのホームページより)
AとBのタイルの明るさをくらべてみましょう。Aが暗く、Bが明るく見えるのではないでしょうか。でも、明るさは同じです(Edward H.Adelsonのホームページより)
逆走(ぎゃくそう)した車の運転席から、「逆走危険(きけん)」と書かれた文字が立体的に見えるようになっています(上)。ふつうに走行している時は、文字は見えません(下)(積水樹脂(せきすいじゅし)提供)
逆走(ぎゃくそう)した車の運転席から、「逆走危険(きけん)」と書かれた文字が立体的に見えるようになっています(上)。ふつうに走行している時は、文字は見えません(下)(積水樹脂(せきすいじゅし)提供)
「ブッダの耳錯覚」と名付けられた実験です。写真では風船を使っています(小鷹研理(こだかけんり)さん提供)
「ブッダの耳錯覚」と名付けられた実験です。写真では風船を使っています(小鷹研理(こだかけんり)さん提供)
ロシアのモスクワにある公園で、地面にえがいただまし絵の上に立ってポーズをとる作者(ロイター=共同)
ロシアのモスクワにある公園で、地面にえがいただまし絵の上に立ってポーズをとる作者(ロイター=共同)

          
AとBのタイルの明るさをくらべてみましょう。Aが暗く、Bが明るく見えるのではないでしょうか。でも、明るさは同じです(Edward H.Adelsonのホームページより)

          
逆走(ぎゃくそう)した車の運転席から、「逆走危険(きけん)」と書かれた文字が立体的に見えるようになっています(上)。ふつうに走行している時は、文字は見えません(下)(積水樹脂(せきすいじゅし)提供)

          
「ブッダの耳錯覚」と名付けられた実験です。写真では風船を使っています(小鷹研理(こだかけんり)さん提供)

          
ロシアのモスクワにある公園で、地面にえがいただまし絵の上に立ってポーズをとる作者(ロイター=共同)

 錯覚(さっかく)は、自分の体の感覚が実際(じっさい)のものとは違(ちが)ってしまう現象(げんしょう)です。だまし絵などで使われているので、「見る」錯覚を思いうかべる人が多いかもしれません。

 ただ、私(わたし)たちの持つ感覚が「見る」だけではないように、錯覚は「聞く」や「触(さわ)る」など他の感覚にも起こります。

 

周りに影響され

 「見る」錯覚で代表的なのは、同じ大きさのはずなのに、周りにある模様(もよう)や図形の影響(えいきょう)で大きさが違うように見える「エビングハウス錯視(さくし)」です。明るさは同じでも、周りの色や模様の影響でその明るさが違って見える「チェッカーシャドウ錯視」もあります。

 「触る」錯覚ではおもしろいやり方があります。2人一組になり、相手の耳たぶを片方(かたほう)の手で軽くつまみながら、もう片方の手で耳たぶをつまむふりをしてそのまま下に引っぱってみましょう。相手は自分の耳たぶが伸(の)びてしまったような感覚を味わうはずです。「ブッダの耳錯覚」と名付けられた実験で、名古屋(なごや)市立大の研究グループが論文(ろんぶん)を発表しました。

 他に、バドミントンのラケットのガットを両手ではさみこんだ状態(じょうたい)で、ラケットをゆっくりと前後にこすると、ガットに触(ふ)れている手のひらの感覚が「ざらざら」からだんだんと「すべすべ」に変わっていくように感じる「ベルベットハンド錯覚」もあります。

 

確実ではない?

 錯覚が起こる理由の一つに、脳(のう)が過去(かこ)の経験(けいけん)から先読みして考えてしまうことがあります。でもそれでは説明できないものもあり、まだ解明(かいめい)されていません。一つ言えることは、私(わたし)たちの体が感じているさまざまな情報(じょうほう)が、思っているよりも確実(かくじつ)なものではないということなのかもしれませんね。(本田隆行(ほんだたかゆき)・サイエンスコミュニケーター)

 

略歴

 ほんだ・たかゆき 鳥取県三朝(みささ)町出身で、1982年生まれの「科学とあなたをつなぐ人」。神戸(こうべ)大学大学院時代の専門(せんもん)は地球惑星(わくせい)科学でした。日本科学未来館勤務(きんむ)を経(へ)て国内でもめずらしいプロのサイエンスコミュニケーターとして活動中。

 

事故防止や医療・・・ 身の回りに大活躍

 不思議な体験ができる錯覚。身の回りには、うまく活用している例がいろいろあります。

 はばのせまい道路にえがかれる模様(もよう)「イメージハンプ」はその一つです。車の運転席から見ると、まるででこぼこしたものが置いてあるように見えます。これは、車にスピードを落としてもらい、交通事故(じこ)を未然に防(ふせ)ぐためのくふうです。

 医療(いりょう)の現場(げんば)でも役立てられています。脳卒中(のうそっちゅう)で腕(うで)を動かしにくくなった人が、動く側の腕を鏡に映(うつ)して意識(いしき)して動かします。すると、脳は動かない側の腕が動いていると錯覚します。これは「ミラーセラピー」と呼(よ)ばれるリハビリの方法で、錯覚した時の刺激(しげき)が、脳の反応(はんのう)を高めるのに効果(こうか)があるとされています。

 このほか、コントローラーのふるえを制御(せいぎょ)することで、持つ手が引っぱられているような感覚になるモバイル端末(たんまつ)の開発などもあります。