「ボクはじっとできない 自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし」の表紙(バーバラ・エシャム/文、マイク&カール・ゴードン/絵、品川裕香/訳、岩崎書店)
「ボクはじっとできない 自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし」の表紙(バーバラ・エシャム/文、マイク&カール・ゴードン/絵、品川裕香/訳、岩崎書店)

 「なんで こんなに いろいろ やっちゃうんだ! じぶんでも わかんないよ! いつも しっぱいしてから 気がつくんだ。「たいへんなこと やっちゃった」って。 だけど しっぱいするまでは すっごい いいアイデアに思えるんだ。どうにかしたいよ じぶんを!」

 主人公のデイヴィッドは学校や家庭で悪目立ちしています。やってみたいアイデアがどんどん浮かんで、すぐに試したくなります。授業中に鉛筆回しが何回できるか、片目でどれぐらい立っていられるか、プリンの容器を握りつぶすとどうなるか。そのたびにゴールスキー先生からとても怖い「デイヴィッド・モード」の声で怒られます。

 発達障害の一つ・ADHDのあるデイヴィッドのような子どもは、不注意や多動、衝動的な行動の結果、叱られることが多くなりがちです。でも、彼らは決して頑張っていないとか、ふざけているわけではないのです。しかし、叱られてばかりいると「どうせぼくなんて…」と自己肯定感が下がってしまうことも少なくありません。その上、周囲からの適切な理解と支援が受けられないと、2次障害として非行や反社会的な行動を示すこともあります。

 デイヴィッドが素晴らしいのは、どうしたら、この「じっとできない病」を改善できるか考えたこと。絵本の中では、親や教師が知っておくといい、すてきなアイデアが、デイヴィッドから「解決救急箱」として提示されます。

 すべきことをメモして机に貼っておく、タイマーで時間を可視化してもらう、動きたくなった時は配り物係などを任命してもらい、その行動をいいことにする、などです。これらは最近、日本の教育現場にも取り入れられています。また本作にあるように、米国では、ストレスを解消し、注意・集中を高めるためのストレスボールを、ADHDのある子どもたちがよく使っています。

 学校でうまくやるためのこうしたこつを、本来は親や教師が子どもに提案し、それらを用いてでも、できたことをしっかり褒めることが求められています。

 みんなと同じことができるだけでなく、デイヴィッドのような「特異」なひらめきを持つ子にしかできない「得意」を見つけて伸ばすことも大切です。実は私もかなり衝動的です。飛べると信じて高所から飛び降りて骨折するなど、ひらめいたアイデアを後先考えず実行し、親に叱られたことは数知れず。それでも、挑戦したい気持ちを尊重し、惜しみなく機会を提供してもらって、今の自分があるのだなあと感じるのです。

 

  みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。